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THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 TOKYO Event Report #05

伊藤穰一・松本大氏らが議論「暗号通貨とこれからの規制」

暗号通貨に代表されるフィンテックの時代に、金融業界のレギュレーションはどうあるべきか。6月に開催されたカンファレンスで、コインチェックの買収で注目されたマネックスグループの松本 大CEO、MITメディアラボの伊藤穰一所長らが議論した。 by Yasuhiro Hatabe2018.07.25

「テクノロジーの進化がもたらすレギュレーション維新」をテーマに、6月19日に開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 TOKYO」(デジタルガレージなどが主催)。最後のセッションでは、「FinTechの未来」と題したパネルディスカッションが開かれた。

セッション冒頭では、ジョージタウン大学の松尾真一郎研究教授が登壇。ビットコインを例にとり、テクノロジーと規制の現状、今後の論点を整理した。

「サトシ・ナカモトの論文を読むと『Payment(支払い)システム』としか書いていない。実はビットコインには、Settlement(決済)の機能はありません。お金のように見えるが、通貨の3つの機能のうち1つしか持っていないのです」(松尾教授)。

支払いシステムとしてのビットコインは技術的にセキュアであることは論文に書かれているが、それ以外の部分は触れていないのだという。

ビットコインを実際にお金として機能させようとすると、その「持っていない」機能を補完するために中央集権的な「トラステッド・パーティ」が必要になる。暗号通貨の交換取引所で現在起きているさまざまインシデントはこの部分で起きている。

「G20は、『Cryptocurrency(暗号通貨)』の代わりに『Crypto-asset(暗号資産)』という言葉を使い始めている」と松尾教授は続ける。ICO(新規暗号通貨公開)が「証券なのか、そうではないのか」は最近の規制に関する議論の焦点の1つだと説明した。

松尾教授は、「『レギュレーションを変えなければ』と思わせるほどのイノベーションを起こすことのほうが、よほど重要」だとした上で、現状は規制当局、ビジネスをする人、オープンソース・コミュニティのエンジニアの間で相互にコミュニケーションが取れていないのが問題だという。

「草の根からアジャイル的に出てくるイノベーションを統治するには、共通の理解をするための土台を作ることが重要だと考えています」(松尾教授)。

イノベーションと規制のバランスをどうするか

松尾教授のスピーチに続くパネルディスカッションには、カンボジアのマイクロファイナンス会社AMKのケア・ボランCEO、上海商業儲蓄銀行のジョン・ユング副社長兼CIO、マネックスグループの松本 大CEO、CEAiのブラッドフォード・クロスCEO、マネーフォワードの神田潤一執行役員が参加。MITメディアラボの伊藤穰一所長のモデレーションで、フィンテックの現状と規制のあり方について議論した。

伊藤 松本さんは、以前ソロモン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックスという金融の最先端にいましたね。新しいリスクはとるべき、そうでないと新しいマーケットが育たないと考えていますか。

松本 リスクとは、取るべき、または取るべきでないという類いのものではありません。あくまでも、どうプライシングするか、という対象です。

伊藤 プロフェッショナルな投資家としてはそう。ただ、いまICOに関して見られるのは、お金を持たない、リスクを取るべきでない人たちが、以前がジャンク債を買ったのと同じように手を出しています。そういう人たちが、常に被害者になります。資産を持つ人が、そういうものを貧困層に売りつけているのではないでしょうか。

松本 その見方こそバイアスがあります。ただ、十分な情報を提供しなければならないことは確か。そして、リスクを計算できるようにしなければならない。その上で、セーフティーネットを考える必要があります。ただし、ソーシャルエンジニアリングの話であり、私はその設計に関してはアマチュアです。

伊藤 ICOに対する規制はどう考えますか。

松本 政治家ではないので規制をどうすべきかは分からないし、発言できません。状況を見て、その上でビジネスを生もうとしている立場です。

神田 暗号通貨には「資産」「通貨」という2つの側面があります。もし「資産」として見た場合、より厳格な、確固たる顧客保護が必要。しかし「通貨」の側面を見た場合、政府、あるいは金融庁として、もっとイノベーションを支援するような政策が必要だと考えます。そこで、日本政府および金融庁としてはジレンマを感じているかもしれません。

昨年、金融庁は非常にイノベーションをサポートする姿勢を示していましたが、コインチェックの事件が起きてしまった。今、金融庁も日本政府も規制をチェックし、改定しようとしています。その際に、2つの側面のバランスを取ることが重要です。

クロス まったくその通りだと思います。しかし暗号通貨の場合、実は通貨の定義を満たしていません。有効な通貨として使われているわけでもありません。つまり、証券として取引されるべきものです。そして通貨の経済的な特性を目指してもいない。そういう現実があります。

だからといって厳しく規制すべきだということではありませんが、ジャンク債なども含めて「あやしいもの」も含めて提供されてきたという金融の歴史があり、ICOもそれに並ぶものといえます。

伊藤 日本には、優れた銀行制度があり、決済の選択肢は十分にあると思います。そういったものがない新興市場にイノベーションが見られるはずだと考えられます。たとえばカンボジアではどうでしょうか。

ボラン 確かに、新しいテクノロジーが融資に対するアクセスをより良くしているし、ソリューションがより安価に提供されるようになってきています。これにより、幅広いサービスを提供できるようになってきたことは間違いありません。

暗号通貨は通貨として成立するか

伊藤 長期的に、たとえば30年先に暗号通貨というものが何らかの形で、勘定の単位、あるいは取引手段として成立するのでしょうか。

最近、中央銀行の会議に出席しましたが、受け止められ方としては、一時的な流行であり恐れていないようでした。暗号通貨は国の主権あるいは中央銀行のコントロールに対して脅威を及ぼすのでしょうか。

松本 いずれ中央銀行がデジタル・キャッシュを導入することは、はっきりしていると思います。取引所のフォーラムを見ると、イーサリアムが通貨として語られ、法定通貨に変換することなくイーサリアムで取引されている。すると、国が課税する能力が損なわれる。これは主権国家にとって大きな問題でしょう。

伊藤 P2Pの市場が登場すれば、中央銀行、あるいは連邦当局は何か手を打つのが難しくなるかもしれません。

クロス 国民国家・中央銀行にとっては非常に破壊的。国民国家は、「紙幣の発行」と「暴力」という2つのものを独占しています。彼らの主権を脅かすものに対しては、おそらく暴力を使ってこれを止めようとするでしょう。

忘れてはならないのは、より長い歴史的な視点から見ると、国民国家という概念は比較的新しものだということ。都市国家は古くからありますが、中央銀行のシステムは100年も経っていません。このモデルが今後も機能し続けるかということについても疑問があります。

中国、米国、日本といった国は政府が力もお金も持っているこのような動きを止めて、デジタル通貨を発行するようなことは、可能性としては考えられます。

ユング 米国では間違ったことを言うと、その取引相手が去ってしまう。そういったところで拒絶された人たちが作り上げる経済圏ができるかもしれません。

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畑邊 康浩 [Yasuhiro Hatabe]日本版 寄稿者
フリーランスの編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。2016年1月からフリー。
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