「ロビー活動2.0」
マックやトヨタも使う
ビッグデータ企業の正体
法案を支持し、実際に「通す力」を持っている議員は誰か——。ビッグデータ分析によって政治家を「自動的に」評価するサービスが米国で躍進している。1300社の顧客を抱え、有力投資家から資金を集めるフィスカルノートは、民主主義に新たな平等をもたらすのか。それとも強者をさらに強くするだけなのか。 by Andrew Zaleski2018.09.13
広報コンサルタントのスー・ゾルダックは、常に熾烈な競争下にある。名字のゾルダックはスロバキア語で「金銭のためなら何でもやる人」の意味だと彼女はよく話す。自身が設立したゾルダック・エージェンシー(Zoldak Agency)は、顧客の要望に応えるためにターゲティング広告と草の根キャンペーンを駆使する。顧客の要望は、特定の法案へ賛成票(あるいは反対票)を投じるように選出議員に圧力をかけるため、有権者を動かすというものだ。厳密に言うと、ゾルダックはロビイストではない(直接政治家と話をするわけではない)が、古くからロビー活動をしている企業が軒を連ねるKストリートで15年間経験を積み、斡旋収賄が横行するワシントンDCの環境に堂々と適応している。つまり、ゾルダックは公共政策を形づくり決定を目論む企業や団体が頼る人物なのだ。
ゾルダックはこのところ、新しい情報源に助けられている。26才にして政治ビジネスの達人であるティム・ウォンCEO(最高経営責任者)が設立したデータ・インテリジェンス・プラットホームの「フィスカルノート(FiscalNote)」だ。現在ゾルダックは、顧客である保健医療関連企業のために(名前の公表は控えた)、「必要証明制度」法の改正を検討している州を駆けずり回っている。1974年に成立したこの法律は極めて曖昧で、新しい病院や老人ホーム、リハビリ診療所が設立予定地域で必要とされていることを、州規制当局に対して証明するように保健医療事業者に義務づけている。必要証明制度は、地方の需要では限られた数の医療施設しか維持できないとの考えに基づき作られたものだった。病院が多すぎてベッドが埋まらない場合、固定費を補うために医療費を引き上げ、患者に過剰請求することになるからだ。
当然のことながら、この法律は政治的権力闘争の原因になっている。急成長中のクリニックや病院のために活動するロビイストは、法律をひっくり返すために州規制当局を豪華な酒食で接待するが、古くからの確立した地位がある病院のために活動するロビイストは法律を改正させないように働きかける。政治的駆け引きが熾烈を極めるため、1987年に米連邦議会は連邦指令を無効にした。その後、14州が州法を廃止し、他の州も追随する可能性がある。
シンクタンクや「影響を受ける団体」としてゾルダックが名前を挙げる顧客は必要証明制度法の撤廃を目論んでおり、この州法を廃止あるいは改正しようとしている州議会はどこかを知りたがっている。これはかなり大きな仕事だ。ゾルダックは、州議会議員が過去の同じような法律にどのような票を投じたか、どの企業が議員に影響を与えようとしたか、その影響はどのくらい大きかったのか、そして、投票の結果はどうであったのかを知る必要がある。そして、そのデータを顧客に提供するのだ。
ゾルダックは賢いかもしれないが、ゾルダック・エージェンシーは小企業だ。電話をかけたり、州の記録を徹底的に調べたりする大勢のスタッフを抱えている訳ではない。ここでフィスカルノートのサイトをのぞいてみる。クリックすると、プラットホームは、スポンサーや共同スポンサーの名前とともに議案の内容を示す。もう一度クリックすると、この議案に賛成する州議会議員と反対する州議会議員について知るべきあらゆることの要約が表示される。たとえば、投票歴、賛成票を投じた議案のうち法制化された条例の数、影響力を持つ分野(保健、教育、住宅)、さまざまな問題についての政治思想などだ。フィスカルノートはデータを高速処理して、どの議員がどのように投票するかを予想する。「その結果によって、メッセージを届ける狙いを定めるべき有権者がいる特定の地域かどうかが分かるのです」とゾルダックはいう。
フィスカルノートに感銘を受けたゾルダックは、自身が非常勤教授を務めるジョージワシントン大学政治マネジメント大学院にウォンCEOを講演者として招いた。「フィスカルノートはロビー活動を妨害すると、多くの人が言っています。長い目で見れば、ティム(ウォンCEO)はロビー活動を妨害する存在になりえる人物の1人です」と、ゾルダックはいう。「彼は、私の身近にいるマーク・ザッカーバーグにもっとも近い存在なの」。
実際のところ、フィスカルノートがもっとも似ているのはフェイスブックではなく、『マネーボール(MLBチームの再建を描いたハリウッド映画)』かもしれない。野球同様、ロビー活動は、もはや年寄りやベテランの直感に頼らない。いまでは、コンピューターのデータと予測によって精緻に進められている。ほかにもポップヴォックス(PopVox)やクォーラム(Quorum)など、新しいデジタル企業はある。だが、1300社の顧客を抱え、マーク・キューバンや、スティーブ・ケース、ジェリー・ヤンのような優れた投資家から5000万ドルものベンチャー投資を受けているフィスカルノートは、特別な存在だ。
「このビジネスには常に人間的な触れ合いがあります」と、独立系対政府交渉企業であるラニアン・パブリッック・アフェアース(Runyan Public Affairs)のジョン・ラニアン社長はいう(ラニアン社長は長くワシントンDCで企業のためにロビー活動をしている)。だが、フィスカルノートのようなプラットホームを使うロビイストは、議員の意見に影響を与えるために「狙いを定めて風穴を開けられるのです」。
フィスカルノートは自社について、教職員組合や環境団体、多くの非営利団体のような小さな組織や団体に政府の資料や分析力を付ける民主主義の新しい勢力を代表しているとよく言っている。だが、ワシントンDCのアナリストは、候補者にしっかり根付いたロビイストや目標とする主張に磨きをかけたい多国籍企業が、潜在的に投票者の意思を弱めるように、フィスカルノートが手助けしてい …
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