火星に行きたいですか? スペースXのイーロン・マスク氏は、行けると信じており、人類の未来は火星行きにかかっていると思っている。
マスク氏は、火曜日にグアダラハラ(メキシコ)で開催された国際宇宙航行連盟大会に出席し、ぼうっとしている聴衆に、火星を植民地化することは、人類の絶滅を回避するための鍵であり、また同氏がご丁寧に「累積資産」と呼ぶ資金が存在する唯一の理由は、人類を「地球の引力を離れ、多惑星文明」にするための探求に資金を出すことだと述べた。
人目を引くビジュアルがてんこ盛りの壮大なプレゼンテーションで、マスク氏は最初の火星入植者を新しい家へ運ぶことになる巨大な惑星間宇宙船の建造計画を明らかにした。マスク氏のロケットは、アポロ計画の有名なロケット、サターンVよりも大きく、4倍も多くの人を運べて、地球の軌道に乗り、燃料は、タンカー船で別々に運ばれ、惑星が適切に並ぶ時だけ、火星艦隊は出航することになる。マスク氏は、最終的にそのような宇宙船は最大で1000隻まで就航するだろうと述べた。
大胆な目標は、小さな、非常に刺激的な詳細で裏付けされていた。今週これまでに、スペースXはラプターエンジンを発射実験して成功を収め、そのうちの47基は主要な打ち上げロケットに使われる。スペースX出身のチームは、宇宙船の巨大なカーボンファイバー燃料タンクを完成させたばかりで、ある1枚のスライドでは、格納庫の中で立つチームは、燃料タンクの下で小さく見えた。
全てがもう間近に迫っている気にさせるプレゼンだ。しかし、マスク氏はいくつかの重要な詳細を伏せたか、あるいは省略した。
マスク氏は、現在のところ、「無限のお金」があっても人を火星には連れて行けないと認めたが、約20万ドルのチケットの価格を下げる構想について、購入費用分を稼ぐまでに多くの飛行回数が必要なボーイング737の例と宇宙船を比較する以外に、ほとんど話さなかった。マスク氏は、15回から30回も飛べば、非常に高価なロケット1席の価格は、米国の「家の平均価格」くらいに落ちるはずだと素っ気なく示した。
出資母体の話も大ざっぱに語られたが、不思議なことにマスク氏は、テスラとソーラーシティの合併企業をスペースXに組み合わせることには触れなかった。その代わり、マスク氏は、同氏の個人的な財産、スペースXの商業打ち上げからの収益と世界の政府との巨大な(しかも曖昧な)「官民パートナーシップ」が、このプロジェクトをやり遂げるには必要だと述べた。
続いてすぐに、マスク氏の登場をさらに効果的にする一幕があった。軽率な思い上がりに駆られて、マスク氏は、Q&Aセッションで最初の火星行きの飛行船を「Heart of Gold(金色のハート)」と名づけたことをうっかり漏らした。ような気の利いた『銀河ヒッチハイク・ガイド』の引用だが、マスク氏は本心では全人類のプロジェクトとは思っておらず(どれだけのお金や支援を他からマスク氏が得ても)、自身のプロジェクトと見ていることを示している。
マスク氏はまた、「マスク・エクスプレス」が乗客を降ろした後に、どのように乗客が火星で生きていくかについては、どうにか話さずに済んだ。その質問に対するマスク氏の返答は、同氏のビジョンを北米全域にユニオン・パシフィック鉄道を建設することと比べることだった。スペースXは、実際の植民地ではなく、輸送網を作っていると、マスク氏はいう。人々はかつて西海岸に線路を敷くことを馬鹿げたことだと思ってたと、同氏は付け加えた。人々は「そこには何もないのに、どうしてそんなことをしようとするんだ?」といった。そして見てみればいい。今や、カリフォルニアは、テクノロジー世界の中心地、シリコンバレーの本拠地だ、と。
興味深い比較だが、マスク氏は私たちが知らない何かを知っているのだろうか? 現在たくさんの火星人がそこにいて、地球に向かって飛ぶ宇宙船を作っている最中で、私たちは小惑星帯で会うことになるのだろうか?
セッションが終わりに近づくにつれて、聴衆のほとんどは、明らかに、人々を火星に送ること、植民地を築くこと、そして人々を帰らせることの実際問題について真剣に対話するのでなく、マスク氏のご機嫌を取るようになっていた。「質問者たち」の正体は、この偉大な人物に自分のスタートアップ企業を宣伝する人々だと分かった。ある女性は、マスク氏に「グッドラック・キスをしに2階に行きたいか」と尋ねた。
それでも、誰もマスク氏が大きな夢を持っているとか、私たちの多くがマスク氏は何かをやってしまうと信じていると非難はできない。結局のところ、マスク氏はごみごみした古い地球上でものすごい量の仕事を成し遂げてきた。もしマスク氏が太陽から次の惑星へ私たちを何とか連れて行けるなら、ひょっとすると、マスク氏が言うとおりになるかもしれず、私たちみなの暮らし向きが一層よくなるのかもしれない。