スナップチャットの新製品で
ライフログブーム再来……?
スナップチャットのサングラス型コンピューターはシンプルさを武器に、若者に受け入れられるかもしれない。 by Jamie Condliffe2016.09.27
日常生活をありのままに記録したいと思う人間の欲求を利用しようと、テック企業は何年もかけてヒット商品の開発に取り組んでいる。米国を中心に大人気のチャットアプリ「スナップチャット」の運営元であるスナップは、シンプルさがヒット商品開発のカギではないかと願って、スマートグラス「スペクタクルズ(Spectacles)」を新発売した。
以前ライフログの素晴らしさを訴えていた人には、最近、記録を諦めてしまった者もいる。ライフログを早くから始めていた人には、睡眠や歩数、カロリー摂取量、気分に至るまで、全てを記録しようとして、結局、ライフログは続けにくく、無意味だと感じるようになった。
グーグルはライフログブームに乗ってグーグルグラスを商品化しようとしたが、プロジェクトは困難を極めた。2013年4月に初めて発表されたグーグルグラスは、のちに「Glass Explorer」プログラムに改められ、1500ドルという高価格で発売された。昨年になって一般発売は中止され、研究や企業向けの提供に追いやられた。
グーグルグラスには多くの問題があった。高すぎる価格設定は確実に購入者を限定した。プライバシー擁護派が許可なく写真を撮ることについて延々と危険を訴えた結果、「グラスホール(グラスをつけた馬鹿)」という素敵な用語まで誕生した。しかし最大の欠点は、グーグルグラスの小さなフレームに、小型コンピューター、ディスプレー、カメラ、マイクなどをグーグルが無理に搭載しようとしたことだ。グーグル的には、小さなフレームに何でもかんでも搭載することで未来を発明するつもりだったが、グーグルグラスは未来を予測する最良の方法ではなかった。
こういう経緯を経て、いま、スナップ(スナップチャットから社名変更)は、もっとよくできると思って乗り出してきたわけだ。
グーグルグラスは投機的に未来を予測しようとしたが、スナップの新製品スペクタクルズは実用主義の典型だ。新製品のサングラスのスタイルは、レイバンを思わせ、ボタンに触れると撮影者目線の映像を撮影できる。視野角は115度、最長30秒間の映像を円形の動画形式で撮影できる。動画は、Wi-FiやBluetoothでスマホに転送し、スナップチャットに追加できる。
ただそれだけだ。それ以上の機能はない。
スナップのシンプルさ、技術的観点から新たな分野を切り開こうとしなかった決断そのものが、将来的なスナップの地位を確固たるものにするかもしれない。スペクタクルズの最も魅力的な特徴は、スナップが示している明確な狙いかもしれない。サングラスをかけて、撮影者目線のイメージを手に入れ、自分が体験したことを映像に収める。そして、即座に動画をWeb上にアップロードする。
スナップはスペクタクルズに、ある革新的な仕上げを施している。デバイスが円形の映像を撮影するのだ。少なくともスナップチャットでは、デバイスを軽く動かせば、問題は解決する。スマホを横向きに持ったまま撮影し、縦向きにすると映像の向きまで反対になってしまう厄介な問題だ。
Snapchat just solved the portrait vs landscape video argument forever pic.twitter.com/iOsKeaeXkb
— Owen Williams⚡️ (@ow) September 24, 2016
プライバシーについて、解決が難しい問題も考えなければならない。グーグルグラスは密かに映像を撮影できることから批判の嵐に苦しんたが、スナップも間違いなく起きる同じ批判を逃れようとするだろう。少なくともスナップチャットは、問題点を具体的に考慮した。撮影中にサングラスが点灯すれば、プライバシーを多少は保護するかもしれない。だが、サングラスが点灯する機能も、デバイスが発売されれば数日で改造されてしまうに違いない。
スナップが有利なのは、販売数だ。グーグルグラスはシリコンバレーに暮らすような、裕福な中年のごく一部で、周囲から孤立していると感じやすいタイプの人々専用だった。一方で、スペクタクルズを着用したデジタルネイティブのミレニアル世代が街じゅうを埋め尽くせば、公共の場での映像撮影が一般化するかもしれない。
公共の場での映像撮影が一般的になるまでには、時間がかかる。シュピーゲルCEOはウォール・ストリート・ジャーナル紙に、商品展開までにはゆっくりと時間をかけて取り組むつもりだと語った。ゆっくりとアプローチすることによって、日常生活でのスペクタクルズの適応性やユーザーの反応を見極める手順を踏んでいける。スピーゲルCEOのいうとおり、スナップが時間をかけて商品展開に取り組み、一般的に受け入れられるなら、スペクタクルズの発売によって、スナップは従来不要だとされていたアイディアを転換させて、日常生活を簡単に撮影できるようにするかもしれない。
スペクタクルズは、ライフログを再び格好良くしてくれるかもしれない。
(関連記事:Wall Street Journal, “Google Glass Is Dead; Long Live Smart Glasses,” “Google Glass Finds a Second Act at Work,” “Life Logging Is Dead. Long Live Life Logging?”)
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- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。