脱炭素社会に水を指す
「再エネ依存」の罠
火力発電や原子力発電に代わる「主力電源」として、太陽光や風力などの再生可能エネルギーに対する期待は大きい。だが、安定的な電力供給に必要な蓄電システムの構築にかかるコストは、現時点では2.5兆ドル(米国の場合)にも上る。脱炭素社会へ向けた現実的なシナリオが必要だ。 by James Temple2018.08.08
カリフォルニア州モス・ランディングの入り江にある天然ガス火力発電所からは、150メートルを超える大きな煙突が伸び、小綺麗な海辺の街を工業的な雰囲気で覆っている。
もしカリフォルニア州当局が決定を下せば、この発電所は2020年後半にも世界最大のリチウムイオン蓄電池プロジェクトの拠点になる可能性がある。カリフォルニアの送電網を流れる不安定な風力や太陽光発電の安定化に役立つはずだ。
300メガワット時の容量を持つことになる新しい施設は、カリフォルニア最大の電力ガス会社パシフィック・ガス&エレクトリック・カンパニー(PG&E)が今年6月、州の公益事業委員会に対して認可を申請した、4つの大規模リチウムイオン蓄電池プロジェクトの1つである。これら4つのプロジェクトでは、1か月あたり2700世帯に電力を供給するのに十分な容量を送電網に加えることになる。カリフォルニア州が年間で利用する電力のおよそ0.0009%に相当するものだ。
テスラが南オーストラリア州に設置した100メガワット時の大規模施設に代表されるように、リチウムイオン電池の価格が下がり、再生可能エネルギーの生産が増えるにつれて、さらに大きなリチウム蓄電システムを作ろうという動きが世界的に広がっている。カリフォルニア州の一連のプロジェクトもそうした動きの1つだ。巨大な蓄電池を使うことで、化石燃料を使った火力発電を風力や太陽エネルギーが代替する割合が高まるのではないか、との楽観的な見方が次第に強まっているのだ。
だが、こうしたバラ色のシナリオには問題がある。リチウムイオン蓄電池は非常に高額かつ寿命が短く、送電網で果たせる役割は限定的だと専門家は見ている。再生可能エネルギーによる発電が増えるにつれて、原子力発電や炭素回収技術を用いた天然ガス火力発電といった低炭素発電の広範な組み合わせが無視され、大規模な蓄電のためにリチウム蓄電池に依存する度合を高めていけば、私たちは取り返しのつかない危険な道を進んでいくことになるだろう。
少しならいいけれど……
マサチューセッツ工科大学(MIT)とアルゴンヌ国立研究所の研究者による2016年の分析によると、今日の蓄電技術は、ピーク時に発電する尖頭負荷発電所の代替として限定的な役割で活用されるときに最善の結果をもたらす。尖頭負荷発電所とは、主に天然ガスを燃やして火力で発電する小規模な発電所で、電力料金と需要が高まったときに迅速に発電を開始するものだ。常時運転していなくとも採算の取れる施設である。
リチウムイオン電池は、こうした尖頭負荷発電所に対して5年以内に経済的な競争力を持てるようになるだろう、とフォーム・エナジー(Form Energy)のマルコ・フェラーラ共同創業者は語る。フォーム・エナジーはMITからスピンアウトした企業で、送電網向けの蓄電池を開発している。
「天然ガスによる尖頭負荷発電所ビジネスはそろそろ終わりを迎える段階に来ており、リチウムイオン電池がその代わりとして優れています」とフェラーラ共同創業者はいう。
尖頭負荷発電所によるピーク時発電こそ、多くの蓄電池プロジェクトが果たせるように設計されている役割である。事実、カリフォルニアの蓄電池プロ …
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