体内で生成される電場は、診断に役立つ強力なツールとなる。他の手段では収集するのが不可能な知見を得られるため、臨床医は日常的に患者体内の電気信号を用いて、脳、心臓、神経、筋肉の機能を測定している。
だが、このアプローチには限界がある。たとえば、胎児の心臓からの電気信号は、母親の電気信号に埋もれてしまうので、検出することが困難だ。そのため、胎児の心臓病を診断するのは特に難しい。
体内の電気的活動を調べる方法がもう1つある。体内の電気的活動により生じる生体磁場を測定するのだ。磁場には短い距離ですぐさま減衰する性質があるため、胎児の磁場信号を母親の磁場信号と区別するのがはるかに容易になっている。
一方、診断に必要な高い感度を持つ磁力計は超伝導技術を使っており、液体ヘリウムの温度(摂氏マイナス269度)まで冷却する必要がある。そのため、周囲の環境から隔離する必要があり、測定対象の臓器に磁力計を十分に近づけられない。結果として、これまでずっと、検出できる生体磁場は微弱なものに限られ、解釈するのが困難だった。
室温で利用可能で、対象物から数ミリメートル以内の位置に設置でき、体内の磁場信号を測定するのに十分な感度を備えた磁力計が求められているのだ。
現在、デンマークのコペンハーゲン大学のカスパー・イェンセン助教授ら研究チームの功績により、そのような磁力計が実現する可能性が生まれている。イェンセン助教授らの研究チームは、室温で利用可能な磁力計を用いて、人間の胎児と同じ程度のサイズの心臓から、診断に役立つさまざまな磁場信号を測定した。この研究は、生体磁場の測定方法に変革をもたらし、医師が他では検出不可能な胎児の心臓病を診断するのに役立つ可能性がある。
この手段を実現する測定器は、光ポンピング磁力計として知られている装置だ。光ポンピング磁力計は、原子ガスを含む小さな容器から成る。イェンセン助教授らの研究ではセシウム原子を用いている。各セシウム原子のスピ …