ドイツの職業訓練制度が問う
「一生通用する技能」の意味
ドイツの伝統的な職業訓練制度であるアウスビルドゥングは、他の国々が見習うべき例として広く知られている。しかし、習得した従来型の細分化された技術で一生を過ごせた時代が終わったいま、劇的に変化するテクノロジーに対してどのような訓練や再訓練をすべきか悪戦苦闘している。 by Russ Juskalian2018.07.05
ミュンヘン郊外に位置するシーメンス(Siemens)の複合施設にある10号棟と30号棟の中では、次世代のドイツ人労働者がさまざまなテスト・プロジェクトに熱心に取り組んでいる。プロジェクトの課題は、自動製造業技術における「ドイツの奇跡」を続けるのに必要なスキルを伝えるように慎重に選ばれている。
- この記事はマガジン「AI Issue」に収録されています。 マガジンの紹介
ある部屋では、若い男性のグループが自動車整備工になるための訓練を受けている。このグループは先週、自動化された生産ラインの小型作業モデルを夢中でプログラミングしていた。このモデルには、センサー、コンベアベルト、そして人間が操作しなくても動作するツールが完備されている。グループのメンバーは、驚くほど流暢な英語で自分たちの仕事について語れるが、米国の同じようなプロジェクトのメンバーと違うのは、誰一人として大学に通っていないということだ。
シーメンスの訓練制度に参加するメンバーのほとんどは、16歳で中学を卒業してすぐに働き始める。ノースカロライナ州立大学のような教育機関のメカトロニクスを専攻する機械工学課程で、年間2万5000~4万4000ドルも支払う代わりに、シーメンスの研修生は学びながら少額の給与を受け取る。
シーメンスの訓練は、年間約50万人の若者に職業技術を習得させている実績で世界中から評価されているドイツの職業訓練制度の一部だ。ドイツの2017年の輸出額は1兆2790億ユーロ(約1兆5100億ドル)を記録した。人件費が高いにもかかわらず、労働者1万人あたり309台の産業用ロボットを備えた、欧州で最も自動化されているドイツだからこそ成し得た結果だ。この成功の中心には職業訓練制度があり、米国の共和党と民主党の両方の政治家が、ドイツの職業訓練制度は見習う価値があると指摘している。
そうした指摘をする人たちは、多くの先進国において、いわゆるスキル・ギャップの問題に言及している。つまり、必要な専門技術を持つ人を企業が見つけられないのだ。そのギャップを埋め、若者の失業率に取り組む目的で、2017年、ドナルド・トランプ大統領は米国の職業訓練を拡大するための約2億ドルの拠出を約束した。バラク・オバマ前大統領も2015年に同様のプログラムを始めている。
しかし、人工知脳(AI)やロボット工学に経済が依存するにつれ、ドイツの職業訓練制度は適応するのに苦労するだろうと、一部の専門家は警告している。AIが長い間待たれていた生産性の伸びを促進する中、職業訓練制度によってすぐに時代遅れになるスキルを習得した労働力が多くを縛ってしまうとの見方もある。「ドイツが今後10年間のさまざまな雇用に対して労働者を準備ができることは明らかですが、経済が変化したときに適応可能な労働者を準備しているかは明らかではありません」と、スタンフォード大学の経済学者であるエリック・ハヌシェク上級研究員はいう。
現在必要なスキル
アウスビルドゥング(Ausbildung)プログラムと呼ばれる、ドイツの職業訓練制度(いわゆる丁稚奉公)の起源は、強い権力を持つ組合(ギルド)が職人の訓練を支配していた何世紀も前にさかのぼる。ドイツの大工の中には、今でも訓練の一環としてアフ・デル・ヴァルツ(auf der Walz)に参加する人もいる。これは、3年と1日のあいだ伝統的な服装で職人として修行をして、その …
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