KADOKAWA Technology Review
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錆びついた工業地帯で考えた
「AIは仕事を奪う」の意味
Rob Larson
カバーストーリー Insider Online限定
From rust belt to robot belt: Turning AI into jobs in the US heartland

錆びついた工業地帯で考えた
「AIは仕事を奪う」の意味

かつて鉄鋼の街として栄えたピッツバーグはいま、急速な高齢化と人口減少にあえいでいる。ウーバーやアマゾンといったテック企業の誘致、製鉄所跡地の再開発などを通じてロボット工学の聖地として再生を目指す街の姿からは、AI経済全体の課題が見えてくる。 by David Rotman2018.07.10

モノンガヒラ川沿いの広大な空き地は、数十年もの間、ピッツバーグ産業史の傷として刻まれてきた。かつてこの場所は、ジョーンズ・アンド・ラフリン・スチール(Jones and Laughlin steelworks)のピッツバーグ最大級の製鉄所だった。製鉄業がもっとも有力な産業としてピッツバーグを支えていた頃の話だ。重厚な構造体のほとんどはすでになく、空虚な土地には製鉄していた頃の残骸やいくつかの建物が散在し、ピッツバーグのダウンタウンを流れる川を見下ろしている。

そのとなりに無秩序に広がるのは、ピッツバーグの中でも貧しいヘーゼルウッド地区だ。ここでは住宅が5万ドル以下で購入できるという。ウェストバージニア州に注ぎ込むモノンガヒラ川に沿って南に伸びるマッキーズポートやデュケインのような多くの町同様、鉄鋼と石炭の町、ヘーゼルウッドの経済的存在意義は薄れてきている。

最近、デベロッパーたちの手によって、「ヘーゼルウッド・グリーン」と呼ばれている古い鉄工所跡がよみがえった。人の目を避けるために一方を柵で仕切った、ウーバー(Uber)の自動運転車試験地域だ。一般には非公開だが道路は新しく、0.7平方キロメートル(東京ドームおよそ15個分)の広さがあり、駐車標識や消火栓、舗装された自転車専用道路や歩道を完備している。リバーフロント沿いの都市計画公園の賑わいを思い描くのにそれほど想像力はいらないだろう。

再開発の目玉は、コークス工場跡に作られる「ミル19(Mill 19)」だ。空き地の真ん中には、余計なものが取り除かれて3階建ての金属骨格部分だけになった全長1.6キロメートルの構造体がある。作業員が残った残骸を片付け、再生に向けて準備をしている。計画通りに運べば、2019年の春までには、最初のテナントである先端ロボット工学製造業協会(ARM:Advanced Robotics for Manufacturing Institute)が入居する予定だ。

製鉄所跡へのロボット関連団体の入居は、ピッツバーグ市民にとって象徴的な意味がある。ハイテク経済の構築に熱心なカーネギーメロン大学(CMU)などから発せられる自動化やロボット、人工知能関連技術を活用して、ピッツバーグはピッツバーグ自身に再投資している。ヘーゼルウッドから約8キロメートルに位置するローレンスビルは、今や米国の自動運転車開発の中心地だ。ウーバー・アドバンスト・テクノロジー(Uber Advanced Technologies)が産業施設のいくつかを占有し、自動運転スタートアップのアルゴAI(Argo AI)や、オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)もその近くに拠点を置いている。また、キャタピラーも研究施設を立ち上げ、バックホー(油圧ショベルの一種)など重機の自律運転開発に取り組んでいる。いつか重機も自分で動く日がくるかもしれない。

こういった動きによって、ピッツバーグにはシリコンバレーなどから数十億ドルの資金が集まった。数十年の間、経済が死にかけていたピッツバーグにとって喜ばしい展開だ。効果はすでにあらわれている。町の支援者たちが「ロボット工学通り」と呼ぶ通り沿いのおしゃれなレストランに、施設の外で試験運転をする自動運転車が並んで停まっている姿をよくみかけるようになった。ピッツバーグに長く住む住民の多くが、テクノロジー企業の本社や試験設備の近くの住宅価格の高騰について不平を言う一方、これまでで町はもっとも活気づいているとも話す。

だが、こういった動きにも関わらず、ピッツバーグ経済が不景気にあえいでいる様がさまざまなデータによって示されている。ピッツバーグ人口の激減は止まったものの(1970年から1980年の間に約5分の1になった)、増えているわけでもなく、急速に高齢化が進んでいる。過去5年間で、35才から54才までの人口のうち約7万人がこの地域を離れている。ピッツバーグや周辺の有名大学からそう遠くないない町では、自動運転車ではなく、石炭や水圧破砕法で採掘されるシェールガスに期待が集まっている。収入の高い仕事は少なく、オピオイド(鎮痛剤)依存症で町は荒れている。

こういった事実からピッツバーグは、米国における産業の中心地の縮図というだけでなく、新しいデジタル・テクノロジーを手に入れることによって都市や国が直面する問題のテストケースとなるだろう。AIや先端ロボット工学、自動運転車などのブレークスルーは、多くの市民に繁栄をもたらすのだろうか? 富は起業家や投資家、一部のスキルを持った技術者だけに集中するのだろうか?

全米都市連盟(the National League of Cities)のプログラム・ディレクターであるスコット・アンデスは、ピッツバーグは「仕事を作り出さないような優れた才能やアイデアをただ支援してはいけません」という。「ピッツバーグは21 …

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