美しさは数学が持つ興味深い特性の一つだ。しかし、数学者が美しいと表現するものを正確にとらえるのは難しい。
最も有名な例は、オイラーの等式、 eiπ + 1 = 0かもしれない。一見、無関係のように思える数学領域の間に存在する深い結びつきを表している。たとえば、幾何学で頻出するπ、代数学で頻出するeとi、整数の0と1が演算子の+と=でつながり、思いがけないシンプルな関係を結んでいる。数学界最大の不思議の一つとしてあげられる公式だ。
ここから数学的な美しさの要素として、数学的パターンに何らかの興味深さが必要だということがわかる。この興味深いパターンを認識するのは、これまで人間だけに備わった能力だった。
しかし、近年、機械のパターン認識能力が大幅に向上している。実際、顔認識や物体認識、様々なゲームプレイで人間の能力を凌駕し始めている。
機械の能力が向上するにつれて興味深い可能性が浮上する。数学分野における興味深いパターンや優雅なパターンを機械学習アルゴリズムは認識できるだろうか? さらには、機械学習アルゴリズムは数学的な美の審判ができるだろうか?
この疑問に、ニューヨーク州のIBMトーマス・J・ワトソン研究所のチャイ・ワー・ウー博士がある程度の答えを示した。ウー博士は数学的構造のある種の優美さを識別できる機械学習アルゴリズムを開発して、完全にランダムに生成した数多くの数列の中から興味深いものを抽出させた。
ウー博士はこの研究で、オンライン整数列大辞典(OEIS)という特殊なデータベースを利用している。OEISは、数学者のニール・スローンが1960年代に作ったデータベースで、1996年にWeb上で公開された。
整数列とは、一定の規則に従って並べられた整数の列だ。有名なものとして、素数(1とその数自身以外では割り切れない数字、A000040)やフィボナッチ数列(項が直前の二項の和になっている数列、A000045)などがある。奇数の数列や7で始まる素数などの平凡な数列も含まれる。
OEISを運営する数学者らは実際、「興味深い」数列を広範囲に探し求め、純粋に文化的な意味合いをもつ様々な数列を取り入れてきた。獣の数字と呼ばれる「666」の数列を含む素数などが含まれている。
OEISのデータベースには「667」を含む素数の数列も含まれている(A138563)。数字「667」が重要視されたのは、FAXが一般的に使われていたころ、FAX番号として電話番号に1を加えた数字がよく使われていたからだ …