ハーバード大学の公共政策大学院であるハーバード・ケネディスクールのジェイソン・ファーマン教授は、「テクノロジーの変化に労働者を適応させるのが、米国はかなり下手くそです」と、6月4日に開催されたMITテクノロジーレビュー主催のカンファレンス「エムテック(EmTech)ネクスト」会議で語った。
ファーマン教授はバラク・オバマ大統領の主任経済アドバイザーを務め、オバマ政権のAIに関するレポートの共同執筆者でもある。ファーマン教授は米国における25~54歳の労働力率(生産年齢人口に対する労働力人口の割合)の低さを挙げて、「先進国では最低レベルです」と述べた。
問題は雇用の数ではないという。ファーマン教授は現在の失業率は4%だと指摘し、「最も有力な経済法則の1つに、『仕事をしたいと思っている人の95%程度は実際に働くことができる』というものがあります。ロボットがすべての仕事を奪うというのは正しい見方ではありません」と語った。
問題を理解する鍵は、求められる仕事の種類が近年どのように変わってきているか見ることにある。ファーマン教授は、経済に現在起こっていることに対処すべきであり、10~20年後に何が起こるかを予測する必要はないと語る。
「世界の現状に対して政策を打ち出すしかありません」とファーマン教授はいう。すなわち、教育や労働者の再訓練、求職の手助け、そして高齢労働者のさらなる保護といった活動を重視すべきということだ。技術の発展への長期的な懸念から、すべての国民に対してベーシックインカム(最低限所得保障)を導入することではないという。
自動化や人工知能(AI)に労働者を適応させることは、必ずしも全員にSTEM(科学・技術・工学・数学)教育を施すことではない、とファーマン教授は釘を刺す。「経済全体には無数の仕事が存在します。コンピューターが優れているのは計算だけです」。その代わりに、マネジメントや対人能力などの「ソフトスキル」を労働者に身に付けさせる必要性を強調する。
教育と再訓練は有効ではあるが、「それで十分かどうかは分かりません。税制改革など、富の再分配のために他の政策も考える必要があるかもしれません」とファーマン教授は述べた。