遺伝子療法の進歩の陰で
スクリーニング検査に遅れ
遺伝子療法の進歩により、遺伝性疾患を治療できる可能性が高まっている一方で、疾患を持つ子どもたちを見つけるスクリーニング検査は遅れている。検査により疾患を持つ子どもを早期発見することで、治療の効果をより高められる可能性がある。 by Emily Mullin2018.06.07
生まれて間もなく受けた遺伝子修正の実験的治療が、希少な筋萎縮疾患を持って生まれた15人の子どもの命を救った。
脊髄性筋萎縮症(SMA)と呼ばれる疾患を持って生まれたこれらの子どもたちはほぼ全員、2歳になるまで生き永らえることができなかった可能性が高い。驚くべきことに現在、治療を受けた子どもたちの多くはしゃべったり、自力で座ったりでき、数人は歩くことさえ可能だ。治療を受けていなければ起こり得ない画期的な出来事である。薬を開発したアベクシス(AveXis)によると、生後1~2カ月で治療を受けた子どもたちに最も目覚ましい成果が見られているという。
このことは取りも直さず、子どもたちはなるべく早期に、理想を言えば出生時に、疾患を持っているかどうかを特定するのが望ましいということだ。早期発見が生死を分ける可能性がある。だが、アベクシスや他のバイオテク企業が革新的な遺伝子療法を市場に出すために競い合う中で、米国各州における遺伝性疾患のスクリーニング検査採用の動きは鈍い。こうした遺伝性疾患を治せる可能性がますます高まっているにもかかわらずである。
米国の新生児スクリーニング検査は34種以上の疾患を対象としており、多くの州が今後、対象とする疾患を増やすことを決定している。しかし、SMAが遺伝的要因による乳児死亡の最大の原因であるにもかわらず、大半の州はSMAを検査対象に加えることに乗り気ではない。米国では毎年、SMAに罹患した新生児が約400人生まれている。アベクシスの療法は最も多い1型のSMAを対象とする。
テキサス州SMA新生児スクリーニング連合の創設者であるクリスタル・デイビスには、SMAに罹患した子どもがいる。デイビスのような親たちにとって、新生児スクリーニング検査の早期実施は、この疾患を抱えた子どもたちができるだけ普通に近い生活を送れるようになることを意味する。
「疾患を持った子どもたちも、走ったり、歩いたり、遊んだりできるはずなのに、車椅子の生活を強いられるべきではありません」とデイビスはいう。
SMA 1型の治療は時間との戦いである。SMN1遺伝子の単一突然変異は、脳幹と脊髄に位置する乳児の運動ニューロンに急速かつ不可逆的な損傷を与える。この損傷が筋力の低下を招き、子どもたちは最終的に嚥下や呼吸が困難になる。
デイビスの息子であるハンターは現在6歳になるが、生後2週間で既にすべての運動機能を失っていた。ハンターが生きているのは2016年12月に承認された画期的なSMA治療薬であるスピンラザ(Spinraza)のおかげだ。この薬を投与された子どもたちは目覚ましい回復を遂げている。しかし、この薬は、生涯にわたって4カ月に1度、脊椎穿刺で投与する必要がある。薬の費用は治療の初年度は実に …
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