映画を見るときは、椅子に座り、スクリーンに映し出されるストーリー展開を目で追っていくのが普通だ。しかし、リチャード・ラムチャーンの最新映画は、かなり違う。
英国ノッティンガムにあるノッティンガム大学の大学院生、ラムチャーンはアーティストでもあり映画監督でもある。彼が過去数年かけて制作した作品は、脳の電気活動を検出する100ドルのヘッドセットをつけるだけで、見る人の心で映画の展開をコントロールできる。このEEG(脳波)ヘッドセットを装着すると、気持の変化に応じてシーンや音楽、アニメーションが見るたびに変わるのだ。
ラムチャーンの最新作『ザ・モーメント(The Moment)』は、脳コンピューター・インターフェイスが普通になる暗い未来を探求する27分間の前衛的な映画で、完成に近づいている(ストーリー自体は驚くにはあたらない)。ラムチャーンは編集作業を進めながら、ノッティンガム近郊の小さなトレーラーで一度に6〜8人が入れる小規模な予告編の上映会を始めた(観客の中の1人だけが映画をコントロールし、他の人はそれを見る)。また、6月に英国シェフィールドで開催されたシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭2018でも作品は上映された。
ニューロスカイ(NeuroSky)製のヘッドセット「マインドウェーブ(MindWave)」をつけてザ・モーメントを見ると、注意力を示すと考えられている脳波の周波数の範囲で電気的活動が測定され、注意力のレベルが連続して計測される(このような機器が実際にどれだけ正確に脳波を測定できるかは疑問だということは記しておく)。継続して計測されたレベルはノートPCに無線で送信される。ラムチャーンが特別に作成したソフトウェアはそのレベルを使って、シーンを編集したり、流れるバックグラウンド・ミュージックなどを変更したりする。見ている人は何もしなくていいのだ。
このシステムを完璧に動かすだけでも、ラムチャーンにはエキサイティングなことだ。だがそれ以上に、見る人が意識的に考えたり、スクリーンで起こっている事象に自然に反応したりすることで、効果的に映画を編集できるようになれば、一種の双方向的なフィードバックのループが形成されるとラムチャーンはいう。見る人の感じ方で映画が変わり、映画によって見る人の感じ方が変わるのだ。
「映画が心のシステムの一部になるようなものです」(ラムチャーン)。
脳コンピューター・インタフェース
39歳になるラムチャーンは、短編映画やドキュメンタリー、ミュージック・ビデオを何年にもわたって制作し、テクノロジーを自分の作品に取り入れる方法を試みてきた。ニューロス …