好奇心をそそられる質問がある。物理現象には原因のないものがあるのだろうか、それとも、すべての作用には理由があるのだろうか?
この難問は基礎科学の最も奇妙な分野の1つである量子物理学における核心的な質問だ。科学史上最大級の人物たちを悩ませてきた質問でもある。
この問題はまた、量子コンピューターや量子暗号などの新テクノロジーにとって重要な意味を持つ。もしかすると、原因と結果についての人々の理解を変えかねない、全く新しい科学分野の核心となる問題かもしれない。
今日、この質問に対する1つの答えが得られている。スペインのバルセロナ科学技術研究所(Barcelona Institute of Science and Technology)のモーガン・ミッチェル博士と数十人の共同研究者、および量子理論の最も混乱を呼ぶ予測に関するかつてない実験に参加した、世界中の10万人を超えるボランティアのおかげである。
ミッチェル博士らの結論は、すべての作用に説明が必要なわけではないというものだ。ミッチェル博士と共同研究者たちは、「もし人間の意思が自由だとすれば、原因のない物理現象が存在します」という。実証に基づく科学的手法を使って、自由意思という形而上学的概念を初めて基礎物理学とリンクさせた研究と言える。
まず、背景について少し説明しよう。量子力学の奇妙な特性の1つに、空間的、時間的に同じポイントに生成された複数の量子粒子が同じ存在を共有できることがある。このような関連は「量子もつれ(エンタングルメント)」と呼ばれ、粒子同士が動いてどれだけ離れても相互の関連は損なわれない。
量子もつれに関して不思議なのは、宇宙のある1点に置かれた粒子が、他の点に置かれた粒子と、両者間の距離に関係なく関連し合うことだ。このため、一方の粒子を測定すると、どれだけ離れていようとも、ただちに、もう一方の粒子の測定値に影響を及ぼす。
この特性は長い間、難問とされてきた。一方の粒子が光より速い信号を送らない限り、遠方にあるもう一方の粒子に瞬時に影響を及ぼすことは不可能であるからだ。物理学者たちはこんなことは起こっていないと信じていた。
しかし、光よりも速い信号伝達手段を使わなくても、説明を付ける方法がある。つまり2つの粒子は、物理学者がまだ把握していない隠された方法で相互に関連しているのだ。だが、もしこの隠れた変数を測定できたら、両方の粒子の振る舞いがどのように決められているのかがわかるはずだ。
この考え方では、量子の振る舞いは完全に決定論に基づいており、量子スケールにおいて起こるすべてのことに理由があることになる。この隠れた変数は、現実を表すより深い理論の一部をなすものに違いない。
ここで当然の質問が出てくる。もし現実を表す深い理論があるのなら、どうすれば証拠を見つけられるのだろうか?
1960年代に、当時、欧州原子核研究機構(CERN:European organization for nuclear research laboratory)の無名の物理学者だったジョン・ベルはこの問題に関心を抱いた。アインシュタインが1930年代にこの問題に取り組み、納得できる答えを出せなかったが、それ以降の世代の物理学者たちは問題を棚上げしてしまっていた。量子力学よりさらに根本的な理論があるかもしれないという考えに向き合いたいとは思わなかったのだ。
対照的に、ベルはこの問題の襟首をつかんだ。ベルは、もし「隠れた変数理論」が量子力学よりさらに根本に存在するのなら、宇宙は量子力学が根本原理である場合とは微妙に違った振る舞いをすることを示した。そして重要なのは、ベルがこの違いを測定する方 …