KADOKAWA Technology Review
×
Cable TV Service Will Get Cheaper But No More Interesting

ケーブルテレビの革新的未来
保守的事業者に潰される

米国の規制当局はセットトップボックスを廃止し、新たなエコシステムを構築することで加入者から徴収されるばく大な料金を抑えようとしたが、ケーブルテレビ事業者の巻き返しにより、ほとんど何も変わらないことになりそうだ。 by Mike Orcutt2016.09.14

近い将来、ケーブル会社はセットトップ・ボックスを貸与しなくなり、無料ソフトに置き換わるだろう。だが、米国が改定するケーブルテレビの新規制で、顧客の体験が変化することもなさそうだ。

米国連邦通信委員会(FCC)が提案する新規制で、ケーブルテレビ用のセットトップ・ボックスはなくなるかもしれない。FCCのトム・ウィーラー委員長は9月29日の投票で導入の可否が確定する新規制で、加入者の年間支払額は年間何十億ドルも安くなるという。

確かにケーブルテレビ代は安くなるだろうが、新規制でFCCが本来意図していた番組の検索と選択をサポートする革新的なサービスの幕開けは訪れそうにない。ケーブル会社による熱心なロビー活動により、FCCは、商品の広告や番組宣伝の重要な広告枠であるユーザーインターフェイスをケーブルテレビ会社が持つことを引き続き認めた。したがって、特定の番組やオンデマンド映画の宣伝はタブレットでケーブルテレビを見る場合でもなくならず、広告も表示されることになる。

4月、FCCはユーザーエクスペリエンスを改善する提案により、ケーブルテレビとアプリの新しいエコシステムを創出しようとした。当初の提案では、ケーブル事業者は、第三者のハードウェアやソフトウェアの開発者に、番組そのものと、番組表情報(時間と内容)、あるデバイスが番組に対し何ができ何ができないか(録画など)という3つの重要データへのアクセスを許すことを義務づけていた。開発者は、こうしたデータを使って、視聴者が映画や他のケーブルテレビの番組を発見し、視聴し、推薦することをサポートする新しいツールやサービスを提供できただろう。

ところがケーブル会社は、著作権侵害行為への懸念を盾に、構想に反対した。さらに、コムキャスト(最大のケーブル会社で、テレビ局のNBC、映画会社のユニバーサルスタジオと同じグループ)はすでに米国人はセットトップ・ボックスの使いたがっておらず、その傾向に逆らうような政府の支援はいらないと論じた。コムキャストはRoku(ストリーミングビデオのサービス事業者)やサムスンスマートテレビのユーザー用に新開発したアプリの存在を引き合いに、もうケーブルボックスの代わりのサービスを提供している、というのだ。

現在、FCCはかなりの提案を改定した。ケーブルテレビの未来には、4月の時点で構想されていたような第三者ソフトやデバイスはもうない。コムキャストによれば、未来の姿はむしろ「アプリベース」になる。ケーブルテレビ事業者は、自分たちのアプリを、取引先だけではなく、RokuやアップルのiOS、Android、ウィンドウズ等の「幅広く展開された」プラットフォームに対応させることになる。しかし、ケーブルテレビ事業者は、ユーザーインターフェイスの排他的制御は保持し続けるだろう。

ウィーラー委員長は、新規制でケーブルテレビの加入者が得られる最大のメリットのひとつに「統合サーチ」をあげる。だがその実態は、Apple TVやRokuなどのストリーミングデバイスがあれば、付属の検索機能がインストール済みアプリの番組にアクセスし、ケーブル事業者の有料番組も表示される、ということに過ぎない。

FCCで新規制が採択すれば、事業者は2年間従わなければならない。

人気の記事ランキング
  1. IU35 Japan Summit 2024: Nobuyuki Yoshioka 「量子コンピューターの用途解明、新たな応用へ」吉岡信行
  2. Why the next energy race is for underground hydrogen 水素は「掘る」時代に? 地下水素は地球を救うか
  3. AI crawler wars threaten to make the web more closed for everyone 失われるWebの多様性——AIクローラー戦争が始まった
マイク オルカット [Mike Orcutt]米国版 准編集者
暗号通貨とブロックチェーンを担当するMITテクノロジーレビューの准編集者です。週2回発行しているブロックチェーンに関する電子メール・ニュースレター「Chain Letter」を含め、「なぜブロックチェーン・テクノロジーが重要なのか? 」という疑問を中心に報道しています。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る