エンジニアにとって、情報を保存するのにアナログな形式を使うか、それとも不連続(デジタル)な形式を使うかという問いは、答えるのが簡単だ。不連続なデータ保存には明らかな利点がある。劣化にとても強いことだ。
エンジニアたちはこの特性を活用してきた。コピー(複製)時に発生するノイズ(雑音)が識別できないほど小さいため、デジタルな音楽は何度でも無制限にコピーできる。対照的に、カセットテープやLPレコードなどにアナログで保存された音楽は数回しか複製できない。ノイズが記録された音楽を劣化させ、認識できないものにしてしまうからだ。
進化のプロセスもまた、不連続なデータ保存の利点を活用してきた。DNAは情報をヌクレオチドのシーケンスという不連続な形で記録している。これによって、生命の設計図を、ある世代から次の世代へ高い忠実度で渡すことが可能になる。
脳がどのように情報を記憶しているかという問いに簡単に答えられる、と想像するのはたやすい。でも、実は簡単ではないのだ。神経科学者たちはこの問題について長い間あれこれ考えてきた。神経科学者の多くは、おそらく何らかのアナログデータ保存が使われているだろうと考えている。しかし、不連続なデータ保存なのかアナログなデータ保存なのかを決定する証拠はまだない。
ニュージーランドにあるカンタベリー大学におけるジェームス・ティーとデズモンド・テイラーの研究によって、脳のデータ保存に関する疑問が(少なくともある部分においては)今日解決された。2人は人々がある種の決定を下す方法を測定した。その結果を統計的に分析したところ、脳が情報を不連続に保存していることを強く示す結果が得られたという。この結論は、神経科学者や脳に接続する機器を開発している他の研究者たちにとって大きな意味を持つ。
少し背景を説明しよう。神経科学者たちが結論に達していない理由の1つは、神経信号の性質がどう見てもアナログだからだ。細胞膜はマイナス40mVからマイナス70mVの間の、さまざまな電圧の電気パルスを発生させる。一見しただけでは、神経細胞が運ぶデータもアナログであると想像しがちだ。
それは必ずしも正しくない。どんな回路でも、ある状態から別の状態へと切り替わるのには時間がかかるから、電磁的な信号は常にある程度はアナログである。しかし、移行状態を無視すれば、 …