量子コンピューティングでは、コンピューター自体の製造以外にも難しい課題がある。高度な量子アルゴリズム、すなわち量子コンピューターの性能を最大限に引き出すために特別に作られたソフトウェアが必要になることだ。
アラン・アスプル=グジックは量子アルゴリズムの開発ですでに学会で高い評価を得ているが、このほどその市場を拡大しようとしている。ハーバード大学で教授を務め(7月にトロント大学に移籍予定)、MITテクノロジーレビューの2010年版「35歳未満のイノベーター」の一覧に名を連ねたアスプル=グジック教授は5月17日、発表によると540万ドルを調達して、ザパタ・コンピューティング(Zapata Computing)を共同創業した。ザパタ・コンピューティングの最終目標は、いわば量子アルゴリズムのスーパーマーケットとなることだ。既成ソフトウェアの多種多様な品ぞろえを多くの企業に提供し、量子コンピューターの巨大な処理能力を多くの企業が活用できるようにすることにある。
量子コンピューティングは非常に新しい分野であり、現在はごく一握りの専門家しか量子コンピューターで動作する高度なソフトウェアを作成できない。ザパタ・コンピューティングは、社内に量子の専門家がいない企業でも量子コンピューティング・テクノロジーを利用できるようにしたい考えだ。
量子コンピューターに寄せられる期待が大きいのは、1か0かで表されるデジタル・ビットの代わりに、同時に両方の状態をとることができる「キュービット(量子ビット)」を使うことに起因する。この現象は「重ね合わせ」と呼ばれている。このほかに、不可思議な性質として、いわゆる「量子もつれ(エンタングルメント)」がある。量子もつれとは、互いが物理的につながっていなくても、一方のキュービットが他方のキュービットに影響を及ぼす現象だ。
キュービットを追加していくと、量子機械のコンピューティング能力は指数関数的に跳ね上がる。特定のタスクでは、世界最速のスーパーコンピューターすら凌ぐ性能を発揮する可能性が …