130歳の心、22歳の肉体
若返り目指すハーバード教授
犬の治療で一歩を踏み出す
ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ教授が共同設立したスタートアップ企業が、遺伝子療法による「若返り」の研究を進めている。マウスでの実験から始めて、次にペットの犬に対して同療法を適用して商品として確立し、最後に人間に移行する戦略だ。 by Antonio Regalado2018.05.25
世界で最も影響力のある合成生物学者が、遺伝子療法で犬を若返らせようと新しい会社で研究を進めている。成功したら同じアプローチを人間に適用する計画で、自身が最初の志願者の1人になるかもしれない。
研究を秘密裏に進めているスタートアップ企業、レジュベネイト・バイオ(Rejuvenate Bio)の共同設立者の1人に、ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ教授がいる。同社は、犬は人間の友達であるだけでなく、老化に打ち勝つ治療を市場に広める一番良い方法でもあると考えている。
レジュベネイト・バイオはすでにビーグル犬に対して予備的な試験を実施しており、犬の体内に新しいDNA指令を追加することで動物を「若返らせられる」と主張している。
同社の若返り計画は、ミミズやハエなどの単純な生物に見られる興味深い現象にヒントを得ている。単純な生物の遺伝子をいじってやると、寿命を倍、またはそれ以上に延ばせるのだ。別の研究によれば、高齢のマウスのバイオマーカー(生物指標)のいくつかは、若い個体の血液を輸血することで、若いマウスのレベルにまで回復できるという。
先だってチャーチ教授は、ポッドキャスト配信者ロブ・リードに対し、「すでにマウスで多くの実験をしていますが、これから犬で実験をして、次に人間に移ります」と語った。レジュベネイト・バイオの他の共同創業者であるダニエル・オリバーCEO(最高経営責任者)とノア・デイビッドソン研究主任は、この記事のためのインタビューを受けることを拒否した。デイビッドソン研究主任はチャーチ教授の広大なボストン研究室のポスドク(博士研究員)である。
レジュベネイト・バイオは研究活動について情報を報道機関に出さないので、これまでに何頭の犬に若返り療法を適用したかも分かっていない。米国西海岸の獣医師が公にした2017年のある文書によれば、レジュベネイト・バイオはボストンのタフツ獣医大学(Tufts Veterinary School)と共同で4頭のビーグル犬に遺伝子療法を実施したという。より規模の大きな試験をしているかどうかは明らかでない。
MITテクノロジーレビューは、公的文書や、ハーバード大学からの特許申請、投資家や犬のブリーダーたちへの取材、会社創業者らの公式コメントなどから、年間720億ドルの市場である米国ペット産業を通して見た、寿命延長スタートアップの企業像を取りまとめてみた。
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チャーチ教授は「犬はもともと、それ自身が市場なのです」と2017年5月初旬のボストンでのイベントで語った。「犬は人間の身近にいる大きな生物であるだけではありません。人間が喜んでお金を使う対象でもあり、米国食品医薬品局(FDA)の認可は人間よりずっと早く下ります。私たちは犬で試験して、療法を商品化します。その収益で人間の治験の規模を大きくするのです」。
レジュベネイト・バイオの遺伝子療法によって犬にどんな効果があるのか、依然として分かっていない。しかし、もし本当に効果があれば、似たような特効薬を求める人々による狂騒が起こり、発明者は瞬く間に金持ちになるだろう。
同社の研究は、遺伝子編集などの最新のバイオテクノロジーを利用している。バイオテクノロジーが進歩すると、老化をコントロールし始めることは避けられないと考える研究者たちもいる。しかし、それがいつ起こるかは誰にもわからない。人間の寿命延長が「21世紀に起こるであろう最大の事件」だというのは、チャーチ教授の研究室と共同研究しているハーバード大学の生物学者、デイビッド・シンクレア教授だ。「寿命延長に比べれば、(テスラの)イーロン・マスクのやっていることは平凡に見えるでしょう」。
犬の年
レジュベネイト・バイオは投資家らに会って、米国特殊作戦軍から軍用犬の「改善」について調査するための助成金を得た。一方、ハーバード大学は、「牛、豚、馬、猫、犬、ネズミ」などの動物の老化抑制のための遺伝子的手法について広範囲の特許を申請しようと考えている。
研究チームがペットの寿命を延ばすアイデアに至ったのは、人間の寿命を延ばすことが可能だとしても、認可に時間がかかりすぎるからだ。チャーチ教授はボストンのイベントで、「食品医薬品局で『人間の寿命を20年延ばします』なんて言ってごらんなさい。『素晴らしい。データを集めて、20年後に来てください』と言われ …
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