ブロックチェーンは長期間にわたってデータを安全に保存する数学的構造である。ブロックチェーンのアイデアは、ビットコインのブームに乗じて有名になった。ビットコインが通貨取引を安全に保存できるのはブロックチェーンに依っている。
しかし、ブロックチェーンが有効なのはビットコインに限った話ではない。ブロックチェーンにはあらゆる種類のデータを保存できる。出荷データ、コンピュータープログラムの進捗状況、スマートコントラクトなどといったものである。実際、ブロックチェーンは21世紀の実現技術の1つとなりそうだ。
しかし、ブロックチェーンにもアキレス腱がある。ブロックチェーンのセキュリティは標準的な暗号関数によって保証されている。ブロックチェーンが比較的安全なのは、ブロックチェーンのセキュリティを破るには、一般には入手できないような膨大なコンピューティング・リソースが必要になるからだ。
しかしその状況は、強力な量子コンピューターの出現によって変化しそうだ。量子コンピューターにとって、この種の暗号化による保護を破ることはいとも簡単であろう。しかし、量子コンピューターといえども量子暗号コードは破れない。さまざまな研究グループが量子暗号をブロックチェーンに追加して、ブロックチェーンのセキュリティを保証する策を提案しているのはそのためだ。
だが、より優れた、より根本的な解決策があるという。量子暗号は標準的なブロックチェーンのプロトコルに量子層を付加するに過ぎない。ニュージーランドのヴィクトリア大学ウェリントン校の大学院生のデル・ラジャンとマット・ヴィサー教授は、量子暗号を付加する代わりに、ブロックチェーン全体を量子現象にする方法を提案している。
それは、時間的にもつれた量子粒子を利用してブロックチェーンを作成することだ。1つの量子粒子に、先行するすべての量子粒子の履歴を符号化する。そうすることで、量子粒子を破壊しなければハッキングできないようにするのだ。このようなプロトコルは物理法則に基づいてセキュリティを保証する。だが、このプロトコルは一般の人にとっては奇妙に映るだろう。「分散化した量子ブロックチェーンは、量子ネットワーク化されたタイムマシンと見なせます」とラジャンとヴィサー教授はいう。
まず予備知識を説明しよう。ブロックチェーンは、たとえば通貨取引など、特定のタイプの情報を記録する単なる台帳だ。取引はブロックと呼ばれるデータベースに継続的に追加され、データを格納したブロックは最後にハッシュ関数と呼ばれる数学的手法で暗号化される。ハッシュ関数は、データを圧縮した表現となる数字と文字の列である「ハッシュ値」を生成する。ハッシュ値は元のデータに特有の値であり、元のデータに少しでも変更があれば異なる値になる。
あるブロックから生 …