投資額10億ドルの新会社トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のギル・プラットCEOは、5日、ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)の基調講演で、人工知能とロボットに投資するトヨタ自動車の野心的な計画に関し、より詳細な内容を明らかにした。
トヨタは、スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学 (MIT) の近くに2つのTRIの拠点を設立する予定で、プラットCEOは講演で、いくつかの要職とアドバイザー候補者を発表した。TRIは、以前に国防高等研究計画局(DARPA)に所属の複数のプロジェクト・マネージャーや、非常勤の教授陣からなる技術チームを結成する予定だ。教授陣には、グーグルでロボット研究を率いていたジェームズ・カフナーも含まれる。アドバイザーには、ロボット工学界のパイオニアであるロドニー・ブルックスやフェイスブックのAI研究者でニューヨーク大学のヤン・ルカン教授といった錚々たる顔ぶれが招かれるという。
プラットCEOは、トヨタによる自動運転車の開発に影響を与えるスタンフォード大学とMITの2拠点におけるプロジェクトについても説明した。これらの試みは、自動運転の基幹部分と人工知能分野が広範囲にわたって発展すると期待されている。
「Uncertainty on Uncertainty(不確実な状況での不確実性)」と名付けられたスタンフォード大学とのプロジェクトでは、プログラミングをせずに、新しい状況への対処法を車に学習させる。このプロジェクトは、交通事故につながる危険性のある想定外の状況下で役立つかもしれず、最終的には自動運転車を実用へと大幅に近づける可能性がある (”Driverless Cars Are Further Away Than You Think“参照)。
「発生するとわかっている出来事に対応できるよう、車を学習させることも必要です。しかし、真の課題となるのは、私たちが予期・想定できない出来事にも安全に対処できるよう、車に学習させることです」
だが、このプロジェクトは、これまで誰一人として機械で再現できなかった知能のある重要な側面とも関係がある。スタンフォード大学のチームは、これらの能力を引き出せるよう、機械学習の自動化に集中することになるとプラットCEOはいう。
「The Car Can Explain(自分で説明できる自動車)」と呼ばれるMITとのプロジェクトでは、車が自らのアクションを説明できるようにする方法を探求する。車の誤動作を引き起こしたロジカルな問題を特定できるようになるため、自動運転にとって重要なテクノロジーになるだろう。しかし、これもまた人間の知能における重要な一側面だ。
TRIを設立したトヨタの目標は、自動車の領域を超えて研究を推し進め、家庭用ロボットやプラットCEOのいう「モビリティ・インサイド」の領域まで進出することだ。トヨタは、新たなハードウェアやソフトウェアに加え、新たな素材についても研究・開発することで実現しようとしている。
自動車会社の大半が自動運転に投資しているなか、トヨタはプラットCEOの招聘やTRIの設立により、大胆な一歩を踏み出した。
プラットCEOは、以前にDARPAでプログラムマネージャーを務め、そこでテクノロジーの発展を目的とした大規模なロボット競技をいくつか監修してきた(”Why Robots and Humans Struggled with DARPA’s Challenge“、”A Transformer Wins DARPA’s $2 Million Robotics Challenge“参照)。DARPA以前はMITの准教授とオーリン・カレッジ・オブ・エンジニアリングの教授を務めていた。
プレゼンテーションでプラットCEOは創業期のトヨタの姿に思いを馳せた。トヨタは、1933年に自動車市場に参入する前、産業用織機を製造していた。現在、トヨタは、高齢者介護の補助や家庭における他の作業用ロボットの製造など、創業期と同様の劇的な変化を目論んでいるという。
「人々がマイカーに対して抱く愛情を考慮すると、家庭用ロボットはさらに重宝される可能性があります。今日のトヨタにとってロボットは、織機を製造していた当時のトヨタにとっての自動車産業と同じような存在になる可能性が十分にあります」