ブラッド・スミス:マイクロソフト社長、米国政府によるデータ監視で法廷闘争
コネクティビティ

Microsoft’s Top Lawyer Becomes a Civil Rights Crusader マイクロソフト社長、プライバシー保護の守護神

マイクロソフトのNo.2が米国政府と繰り広げる法廷闘争は、オンライン・プライバシーやクラウドビジネスの未来を決定している。 by Tom Simonite2016.09.09

アップルのティム・クックCEOが、大量殺人犯のiPhoneを調査しようとしたFBIへの協力を拒んだ際、信条を守り、政府に勇敢に立ち向かったとして賞賛を受けた。しかし実のところクックCEOは、(アップルにとっては時代遅れのライバルである)マイクロソフトの最高幹部の教科書からやり方を学んだのだ。幹部の名前はブラッド・スミス社長兼CLO(最高法務責任者、サティア・ナデラはCEO)。薄茶色の髪をした温和な人物だ。

スミス社長は過去3年間で、4度に渡って政府と法廷でやりあった。その度に、マイクロソフトの顧客データを入手する過程で憲法違反があったと訴えている。コンピューターやインターネットのせいで、個人のプライバシーを守るはずの政府の監視体制に対する重要なチェック機能が損なわれている、とスミス社長は考えている。社長兼最高法務責任者という立場から、そのようなチェック機能の再生をはかるために政府に法廷闘争で挑んでいるというのだ。「これまでの力のバランスを崩すべきではありません」と、ワシントン州レドモンドにある、落ち着いた雰囲気の役員室で語ってくれた。

スミス社長の法廷闘争は、大企業からスカイプやWebメールを使用する数百万の市民まで、クラウドにデータを保存している者すべてに影響を与えている。私たちが夢中に使うスマートフォンやブラウザ、デートアプリから日々大量に生み出されているデータは、当局が閲覧できるのだ。しかし当局の権限に対する制限は、概ねデータが紙に記録されていた時代の産物である。合衆国憲法修正第4条(令状に基づかない捜査、逮捕、押収の禁止)と、その関連法規や判例により、警察官が電話を盗聴したり、郵便物の中身を確認したり、家にある書類を調べるには裁判官が発行した令状が必要だ。しかしスマートフォンを調べるのに令状が必要なのに対し、生活にまつわる多くのデジタルの痕跡(携帯電話網にある個人の行動記録など)を見るときは必要とされない。 最高裁や議会が別の裁定を下さない限り、クラウドデータには物理的な紙と同等には保護されないのだ。

マイクロソフトを含むテック企業が法廷で政府に立ち向かうことで、クラウド型製品によって(意図せず)弱められてしまった政府による監視機能の制約を、もう一度課す助けになる、とスミス社長はいう。今年の夏、連邦控訴裁判所はマイクロソフトに有利な判決を出し、「企業に出された令状により、他国にあるデータも引き出せる」という司法省の訴えを退けた。

捜索令状の及ぶ範囲について政府に挑戦するのは、街に繰り出す大衆の抗議デモと同じレベルの動きに見えるかもしれない。しかしマイクロソフトの訴訟と公民権を巡る闘争には関連がある、と語るのはワシントン大学のニール・リチャーズ教授(法学)。政府に監視されることなく、自由な考えを持った人々が連絡をとり、まとまらない限り抗議活動が成立することはない、と教授はいう。「言論の自由や監視からの保護があったからこそ、アッパーサウス地域で人種差別撤廃や平等な結婚、トランスジェンダー向けのトイレが実現しました。デジタル監視の時代には、抗議活動を許容するだけの十分な余地が必要なのです」。

グーグルやツイッターなどの企業も近年、政府の監視活動に対して異議を申し立てているが、スミス社長はその中でも突出している。このような高い地位にいるテック企業の重役が、プライバシーやセキュリティの問題についてここまで目立ち、精力的に動くことは珍しい、と語るのはプライバシーの研究者で、今年まで連邦取引委員会で主任技師を務めていたアシュカン・ソルタニ。アップルのティム・クックCEOがFBIと戦っていたとき、スミス社長は熱のこもったスピーチで擁護したが、グーグルやフェイスブックはありきたりな短いコメントを出したのみで、慎重な姿勢を崩さなかった。

スミス社長は、マイクロソフトが米国公民権の歴史上、画期的な変革をもたらそうとしていると信じている。しかし数十万ものマイクロソフト株を保有している立場から、財政的な理由や受託者としての動機も持ち合わせている。マイクロソフトは、クラウドコンピューティングのサービスに社運を賭けている。顧客(特に海外法人)を取り込み、維持するためには、安全で信頼あるデータ保護者としての姿を見せなくてはならないのだ。

個人や市民、そして専門家の生活がさらにインターネットに依存していく中、マイクロソフトなどのテック企業が、複数の要因が絡み合った動機に基づいて訴訟やPRキャンペーン、ロビー活動をすることで、自己表現や政治主張、社会の発展の未来の姿が決まっていく。

警鐘

スミス社長(57歳)は、1993年のマイクロソフト入社後、弁護士としてのキャリアの多くを政府との闘争に費やしてきた。2002年に法務責任者になった際の最初の仕事のひとつは(マイクロソフトの解体を画策していた)司法省や州検事総長と反トラストの問題を解決することだった。この年には、 プライバシー規則に違反したという理由でマイクロ …

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