2018年初頭、ツイッターの共同設立者で、モバイル決済企業のスクウェア(Square)のジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は、10年以内にビットコインが世界で「唯一の通貨」になると宣言した。ドーシーCEOの発言で驚くべきは、予測が大胆なことだけでなく、ビットコインが投機的な投資以外でも、何かしら有用性があるかもしれないという考え方だ。結局、昨年はずっと、金融界は暗号マニアに支配され続けられたが、一般の目には暗号通貨の「通貨」部分は見えなくなってしまった。昨年、ゴールドマン・サックスの幹部が話したように、今のところビットコインは通貨というよりは資産である。つまり、株や債券のように取引されるものであり、商品やサービスの代価として交換されるものではない。
この認識は現実を反映している。ビットコインのトランザクション数(ビットコインによる商取引数ではない)は、ここ数年間それほど増えていないし、トランザクションの半分は違法行為に関連していることを最近の学術研究は示している。ビットコインの交換媒体としての使われ方は、2010年から現在までほとんど変わっていない。既存の通貨制度の興味深い補完物ではあるが、主に法務当局を忌避したい人々や、たとえば、ベネズエラやジンバブエなどのインフレに苦しむ社会に住む人々にしか有益ではない。
それでも、政府の中央銀行が通貨供給を管理する既存の不換紙幣制度に暗号通貨が取って代わるかもしれないという夢は、今もビットコインを魅力的にしている最重要部分だ。この夢は、もし政府が通貨供給を管理できなくなったときに、市場の競争によって人々がどの通貨を使うかを決めるということだ。だが、もし夢が実現したらどうなるだろうか。ドルとユーロがビットコインに取って代わられたら、不換紙幣制度はどのように適応し、経済・金融制度はどのように機能するのだろうか。
簡単に答えれば、うまく適応できず、うまく機能もしない。経済制度も金融制度も不換通貨を中心に構築されている。景気循環を管理したり、失業対策をしたり、金融危機に対処したりする場合は、経済制度も金融制度も中央銀行の通貨管理能力(およびその通貨で債券を発行する政府の権限)に依存している。ビットコインが支配的な通貨である経済は不安定で過酷なものとなり、政府が景気の後退に対処する手段が限られ、もし金融パニックが始まった場合には沈静化が困難になる。
最も望まないもの
なぜそうなるか知るためには、経済学者が「流動性」と呼ぶものを金融制度の必要性に応じて供給するために、中央銀行(米国なら連邦準備制度)が果たしている極めて重要な役割の認識が必要だ。これは中央銀行が紙幣を印刷して民間銀行に融資するか(民間銀行が後で金融制度にその資金を還元することが前提)、または単に中央銀行が自ら資産を購入することで、金融制度に資金を投入することを体裁よく述べたに過ぎない。流動性の提供は金融危機が起きた場合に特に重要だ。民間銀行は資金の貸し出しを減らし、融資中の資金を取り戻そうとするからだ。金融危機が発生したとき、民間銀行が何とか持ちこたえようと努力を続けているなかで、中央銀行は「最後の貸し手」として大量の民間銀行破綻を防ぐために機能する。
ビットコインを基礎にした経済では、中央銀行がこのように機能することは不可能だ。ビットコイン・プロトコルの重要な点は、ビットコインの総数の上限が2100万と定められており、それ以上は発行されないことだ。これは多くの人にとって魅力的だ。供給量が絶対に増えないものなら、価値が維持されやすいからだ。問題は、金融危機が起こってもビットコインをもっと「刷って」流動性を高められないことだ。中央銀行がビットコインを隠して、後で市場に投入できるかもしれないが、人々は隠したビットコインの量が限られていることを知っているので、大したメリットにはならない。どちらにせよ、中央銀行がビットコインを購入しようとすれば価格が上昇するので、人々はしっかりとビットコインを握りしめ使おうとしなくなる。これは金融危機では一番起こって欲しくない状況だ。
不況時は通常、景気対策として、経済学者の言う反景気循環的な金 …