人工DNAを使うデータストレージ、データ単価下落で現実味
世界中で増え続ける膨大な量のデータを格納するのに、人工的に合成したDNAを利用する研究がなされている。DNAは非常に高密度であることに加えて、長期にわたり安定しているからだ。現在はデータあたりの価格がまだ高額だが、テクノロジーの改良が進めば、ぐっと手に入れやすい価格になる可能性がある。 by Bryan Walsh2018.05.10
サンフランシスコのミッション・ベイを見渡せるオフィスで、エミリー・レプラウストは身を乗り出し、銀色のひし形カプセルを見せてくれた。かろうじて錠剤くらいのサイズだ。
「このDNAのカプセル1つに、フェイスブックのデータセンターにある全データと同じ量のデータが保存できるのです」 とレプラウストは語った。
レプラウストは、創業5年目になるスタートアップ企業ツイスト・バイオサイエンス(Twist Bioscience)の最高経営責任者(CEO)兼共同創業者である。ツイストは人工DNA鎖(合成遺伝子)の供給元として世界最大手とされている。
カスタムオーダーを受けた遺伝子は、合成生物学では原材料になる。バイオテクノロジーを活用したあらゆる新薬、食品、香料を開発する際の出発点となるのだ。レプラウストCEOが見せてくれたDNA入りのカプセルは、DNAを材料にしたストレージ装置に対する新たな市場が誕生する可能性を表している。非常に大きな市場になる可能性もある。
「当社はDNAにデータを書き込む分野のリーダーです」と、母語のフランス語の訛りを帯びた凛とした声でレプラウストCEOは語った。「これからも業界首位の座を維持するつもりです」。
レプラウストCEOがカーテンをくぐって製造室へ案内してくれた際に、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)製のモデル394 DNA合成装置の脇を通り過ぎた。1991年当時には最先端の装置で、1日に4本の短いDNA鎖を製造できるという。現在、ツイストでは、1日あたり300万本ものDNA鎖を製造している。
角を曲がるとツイストのテクノロジーが目に入った。ガラスに入った装置で、インクジェット・プリンターを改造した感じだ。回路基板はむき出しで、ノズルの先は葉書サイズのブラックシリコン素材のウェーハーを向いている。機械が始動すると、小型のタンクからDNA塩基のアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の液滴を9600個のナノサイズの穴に吹き付けていた。それぞれの直径は髪の毛1本分だ。
この装置のおかげで、DNAを安価に製造する競争でツイストは優位を維持している。DNA塩基1つあたり、7セントから9セントで販売できるのだ。
「1桁のコスト削減という誰もが10年間にわたって夢見続けて …
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