セキュリティ面で不備がありそうな企業の株の空売りが、手っ取り早くカネが手に入る新しい方法になりそうだ。
カーソン・ブロック(調査会社マディ・ウォーターズの創業者)は、医療機器メーカーのセント・ジュードの株式を空売りしていると発表し、同時にセキュリティ上の問題を指摘するレポートを発表する手法を実際に試した。ブロックは、セント・ジュードのペースメーカーや除細動器が、簡単にハッキングされてしまう可能性がある(命にかかわるかもしれない)と主張したのだ。
ブロックがこの手法を試すきかっけになったのは、セキュリティ企業メドセク・ホールディングスの調査結果だ。ブロックは製品に潜む脆弱性が世間に知られれば、セント・ジュードの株価が急落すると見込んでセント・ジュードの株を空売りすることにした。実際、セント・ジュードの株は急落した。
ただし、メドセクやブロックが指摘したセキュリティ上の欠陥が、事実かどうかは不明だ。セント・ジュードは、メドセクやブロックの主張は「事実に反し、誤解を招く」と反論した。また、ミシガン大学で准教授(専門は医療機器セキュリティ)もレポートの正確性に疑問を呈している。
しかし、金融市場は真実だけで動くわけではない。
市場は実際に動いたのだ。金融業界の専門家は、あわてて医療機器のサイバー・セキュリティ・コンサルタントに相談をもちかけ、メドセクの報告が正しいのか確かめようとした。問い合わせを受けたひとりのジョナサン・バッツは、ブルームバーグの取材に応じて、この状況は「まるで『マネー・ショート 華麗なる大逆転(原題: The Big Short)』(2016年日本公開)で描かれたことのようです。誰もやっていないことなのに、誰かがそれを見たというのです」と答えた。
事実も映画とほとんど同じで、この種の取引は「まったく新しい」と伝えるブルームバーグの記事は、今後の株式市場にかなり深刻な影響があるかもしれない、とした。
金融市場の動きはめまぐるしく、銀行のアナリストが、こうしたセキュリティ関連情報の正否について、信頼に足る判断力があるとは限らない。そうなると、ウォール街は今後、似たような状況が生じた際にもっと迅速に対応できるような新たな専門知識を求めるかもしれない。
こうした取引には、ハッカーも絡んできそうだ。セキュリティの専門家にとっては、インターネットや専門的会議でささやかに発表するより、メドセクのように、株式トレーダーと情報を共有するかもしれない。ハッカーにはそのほうが儲かるだろが、ぜい弱性のある企業には踏んだり蹴ったりだ。
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