わが子の知能をDNA検査で予測、「精密教育」の時代がやってくる
生命の再定義

DNA tests for IQ are coming, but it might not be smart to take one わが子の知能をDNAで予測
「精密教育」がやってくる

キングス・カレッジ・ロンドンのロバート・プロミン教授は、20万人以上のデータを使った遺伝子検査によって知能を予測する研究に取り組んでいる。将来の進学やキャリア選択に役立つという。だが、「遺伝子主義」は遺伝子選別による新たな階級社会につながるとの懸念の声も上がっている。 by Antonio Regalado2018.05.31

50ドルのDNA検査を受ければ、あなたが博士号を得られる可能性や、よちよち歩きの子どもがエリート幼稚園に合格する可能性が予測できる。そんな世の中に対応する覚悟はできているだろうか?

これこそが、まさに今起きようとしていることだと、行動遺伝学者のロバート・プロミンはいう。

遺伝子研究者は何十年にも渡って知性を生む遺伝的要因を探ってきたが、成果は上がらなかった。だが、ついに遺伝子研究の規模が拡大したことで必然的に質も向上し、IQに結びついた遺伝子の違いに焦点を当てられるようになった。

ほんの1年前までは、IQ検査の成績と結び付けられる遺伝子は1つもなかった。だが、20万人以上の遺伝子検査受検者のデータを使った遺伝子研究のおかげで、500以上の遺伝子がIQと結び付けられた。100万人以上のDNAデータと学問的業績を関連付ける実験の結果が出るのも、もうすぐだ。

米国人であるキングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)のプロミン教授はこれらの発見から、幼い子どものDNAを読み取ることで将来どれくらいの知性を持つことになるのか、現時点での指標が得られるという。プロミン教授はキングス・カレッジ・ロンドンで、英国人の双子1万3000組について長期研究に取り組んでいる。

プロミン教授は2018年1月、『知能に関する新しい遺伝学(The New Genetics of Intelligence)』との題名の論文で、今回のDNAを使ったIQ検査の概要を説明している。直販型のDNA検査を使って両親が子どもの知能を予測したり、学校を選択したりすることをプロミン教授は「精密教育(precision education)」と呼んでいる。

現時点では、精密教育による予測はそれほど正確ではない。検査から得られたDNAの違いによって説明できるのは、研究されているヨーロッパ系民族の知能差の10パーセント以下でしかないからだ。

とはいえMITテクノロジーレビューは、プロミン教授のいうように、すでにDNA検査が使われているのを確認している。少なくとも、「ジーンプラザ(GenePlaza)」や「DNAランド(DNA Land)」など3つのオンライン・サービスが、希望する人に対して唾液サンプルからの遺伝的IQ予測を提供し始めた。

他社はまだ自制している。直販型DNA検査の最大手「23アンドミー(23andMe)」は、人々の脳を評価しないのは、情報が正しく使われないことを懸念しているからだと述べている。

MITテクノロジーレビューが連絡を取った数人の学校教師たちは、この新たな技術の進展に警鐘を鳴らし、DNA検査で子供の将来の学業成績を予測すべきではないと述べた。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の社会学者キャサリン・ブリス准教授は、「考えてみてください。その情報はICタグのように、あなたの行く所どこにでも付いてくるのです。みんながあなたが誰か、どんな人間なのか知っています。私は、これは実に恐ろしいことだと思います」と話す。ブリス准教授は自著の中で、社会科学での遺伝学の使用に疑問を唱えている。

「人々が生まれつきの能力で仕分けされる世界は、遺伝子選別による階級社会を舞台にした映画『ガタカ(Gattaca)』で描かれた優生学です」(ブリス准教授)。

遺伝子の探索

心理学者にとってIQ検査は、単に「ジー(g)」とも呼ばれる一般知能因子を示す指標だ。通常の試験で計測できる数学、空間認識、言語能力などに優れた人たちは、一般知能因子が高い。

それだけではない。一般知能因子は収入、幸福、健康、寿命と強い相関関係がある。一般知能因子が高いことは、あらゆる点で良いことのようだ。プロミン教授にとって一般知能因子は、人生における「万能変数」なのだ。

さらに、一般知能因子は強い遺伝性がある。一卵性、二卵性、両方の双子について、出生時に分けて育てられた場合と一緒に育てられた場合を比較した結果、知能の半分以上は遺伝が主原因であることが分かっている。遺伝子の影響は極めて大きい。残りの部分は、学校、食生活などの環境的要因によるものだ。

だが、どの遺伝子が影響を与えているのかの研究は、なかなか成果が出なかった。プロミン教授は2010年に7900人の子どものゲノムを調べたが、相関関係は見つからなかった。この後、プロミン教授は不運なことに中国の遺伝子配列決定会社であるBGIに、1000人以上の米国の天才たちのDNA情報を提供した。計画が狂ったのは、中国人が「天才赤ちゃん」を作り出すという陰謀が報道によって非難されてからだ。

遺伝子探索の成果が初めて見られたのは、2017年5月のことだ。オランダ主導で行なわれた、双子2825人を含む7万8308人の遺伝子構造研究では、IQスコアに関連した22の遺伝子変異に焦点を当てている。2018年3月までに受検者数とIQスコア関連遺伝子の数は急増し、それぞれ19万9000人、500遺伝子になった。プロミン教授は、次の報告では1000の遺伝子との関連が分かるはずだという。

今のところ、遺伝 …

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