IT業界の次の主戦場 AIクラウド戦争を制するのは誰か?
知性を宿す機械

How the AI cloud could produce the richest companies ever IT業界の次の主戦場
AIクラウド戦争を
制するのは誰か

AIビジネスの主戦場は今後、クラウドに移行していく。アマゾン、グーグル、マイクロソフトのビッグ3のうち、市場を制するのはどこか? シリコンバレーを25年間取材してきたピーター・バロウズがレポートする。 by Peter Burrows2018.04.16

シアトル郊外に住むスワミ・シヴァスブラマニアンの妻は、夏の夜に森から出てきて自宅のごみ箱を漁るクマの姿を見てみたいとずっと思っていた。そこでクリスマス休暇の間、夫であるシヴァスブラマニアンは、それを実現するシステムを急いで作り始めた。

シヴァスブラマニアンはアマゾンの人工知能(AI)部門の責任者である。シヴァスブラマニアンはアライグマや犬、夜間にジョギングする人などは無視し、クマだけを認識するように自己訓練するコンピューター・モデルを設計した。利用したのは、セージメーカー(SageMaker)と呼ばれるアマゾンのクラウド・サービスだ。セージメーカーは、機械学習の知識のないアプリ開発者向けに設計された、機械学習製品である。シヴァスブラマニアンは次に、アマゾンの新しい無線ビデオ・カメラであるディープレンズ(DeepLens)を自宅のガレージに設置する予定だ。6月に250ドルで発売される予定のディープレンズには深層学習用ソフトウェアが搭載されており、学習したコンピューター・モデルを通じて、クマのような訪問者がやって来たらシヴァスブラマニアンの妻の携帯電話に通知する。

シヴァスブラマニアンが作ったクマ検知器は、AIのキラー・アプリケーションというわけではないものの、機械学習の能力がはるかに利用しやすくなっていることの証拠にはなる。過去3年間、アマゾンやグーグル、マイクロソフトは、オンライン写真の顔認識や会話の翻訳といった機能をそれぞれのクラウドサービスであるAWS、グーグル・クラウド(Google Cloud)、アジュール(Azure)に組み込んできた。現在、3社はこれらの基本機能を足掛かりに、あらゆる企業が規模や技術的な複雑さなどには関わらず使えるAIのプラットフォーム作りを大急ぎで進めている。

「機械学習は、1990年代初頭のリレーショナル・データベースと同じようなものです。つまり、どのような企業にとっても本質的に役に立つと誰もが知っていますが、実際に活用できる能力を持つ企業はごくわずかなのです」とシヴァスブラマニアンはいう。

アマゾン、グーグル、マイクロソフト、それにアップルや IBM、オラクル、セールスフォース、SAPといった企業は、AIユーティリティを構築するために必要な巨大なコンピューティング資源と多くの才能ある人材を抱えている。そして、かつてないないほどの高収益をもたらすであろう巨大なテクノロジー・トレンドに必要な不可欠な、クラウド・コンピューティング事業を持っている。

「最終的には、ほとんどの企業がAIを活用するのはクラウド上になるでしょう。テクノロジーを提供する側が利益を得るのもクラウドからになるのです」と、市場分析会社CCSインサイト(CCS Insight)のアナリストであるニック・マックワイアー副社長は話す。

市場の可能性を予測するのは難しいが、主要なAIクラウド・プロバイダーにはこれまでにない可能性が広がっている。現在2600億ドルのクラウド市場は今後数年の間にAIによって2倍になる、とグーグルのクラウドAI部門でプロダクト・マネージャーを務めるラジェン・シェスはいう。機械学習の持つ「AIシステムが多くのデータを取りこめば取りこむほど、より優れた決定ができるようになる」という特性により、顧客は最初に利用したサービス事業者に縛られる可能性が高い。

言い方を変えると、最初に優位に立った企業が勝つということだ。「勝者は次世代テクノロジーのオペレーティング・システムになるということです」と、デジタル・テクノロジーの経済への影響を研究しているニューヨーク大学経営大学院スターン・スクール …

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