地球に似た星の探し方
NASAのコンピューターモデル
NASAのコンピューターモデルが予測した太陽系外惑星プロキシマbは薄紫色の点に見えるだろう。 by Emerging Technology from the arXiv2016.09.05
先週、地球によく似た惑星が存在するニュースに、地球中が驚いた。地球の「双子」は、太陽に最も近い恒星(太陽からの距離はわずか4.24光年)、赤色矮星のプロキシマ・ケンタウリの周りを回っている。「プロキシマb」と呼ばれるこの双子惑星は、地球より少し大きく、プロキシマ・ケンタウリの軌道を11日かけて周回している。プロキシマbとプロキシマ・ケンタウリの間の距離は、地球と太陽の距離のわずか20分の1だ。
プロキシマ・ケンタウリの明るさは、太陽よりもかなり弱い。そのおかげで、恒星からの距離が近いにも関わらず、プロキシマbは「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」と呼ばれる環境(水が地表で液体として存在できる)にうまく留まっている。 この事実を元に、プロキシマbの地表はどうなっているか、その環境で生命が生まれ、育まれる可能性はどのくらいあるかなどについて、細かく推定されてきた。
NASAには太陽系外惑星の環境をモデリングする、VPlanetと呼ばれるソフトウェアがある。VPlanetは、対象とする惑星について知られている内容や、対象とする惑星の親星、惑星進化のプロセスにもとづいてモデリングし、地表における環境について、考えうる状況を予想し、その惑星に生物が暮らせるかどうかを予測する。
米国航空宇宙局(NASA)宇宙生物学研究所のロリー・バーンズらの研究グループは、プロキシマbについて収集したデータを、VPlanetにバリバリ処理させたという。これにより、研究グループはプロキシマbの可能性のありそうな環境を予測できた。
VPlanetの分析は、太陽系外惑星に生命が存在できるかどうかを判断する課題を、9つの別々のタスクに分割するところから始まる。それぞれのタスクの中では、異なる側面から惑星進化の特徴を探っていく。たとえば、あるタスクでは、親星の進化に着目し、親星の性質の変化(明るさなど)が、惑星の現在の環境にどのように影響を与えてきたと考えられるかを調べる。また、別のタスクでは、対象とする惑星を含む星系が、銀河系内でどのように動いてきたかに着目し、惑星に影響を与えた可能性のある、他の星などとの近接遭遇の事例を探す。
別のタスクでは、惑星の中心部(コア)から地表への熱輸送を調査し、地表温度への影響を調べる。さらに別のタスクでは、惑星から宇宙空間への大気の流出をシミュレートし、現在、どの程度の大気が残っているかを予測する。他にも、異なるタスクが異なる面を分析する
モデリング処理から得られた結果は、興味深いものになった。複雑な状況が関わる予測方法の1つに、シミュレーションを何度も繰り返し、その結果が、多くの場合同じところに落ち着くかどうかを見ることがある。VPlanetは、この手法を、プロキシマbの軌道を通過する星の影響をモデリングするのに使っている。VPlanetでは、周回軌道のパラメーターの値を(通常ありえるような範囲で)ランダムに選択し、1万回のシミュレーションした。各試行ごとに、プロキシマbの軌道が不安定になった時点で、研究シームはシミュレーションを中止した。
全試行数のうち約15%で、プロキシマbの軌道の乱れが生じた。これは重要な値である。というのも、こうした軌道の乱れが過去に起きていれば、それが、惑星での生命存在の可否に非常に大きな影響を与えた可能性があるからだ。
VPlanetはまた、このような予測した。もし、プロキシマbという惑星が生まれた時点で、親星(プロキシマ・ケンタウリ)からの距離が、現在と変わらなかったとすれば、プロキシマbの自転と公転は同期している(月が地球に対して常に同じ面を向けているように、プロキシマbが、いつも親星に同じ面を向ける)はずだ、と。 この現象が起きると、プロキシマbの片面は、ゆだるような暑さになり、もう片面は、凍えるような寒さになる。こんな環境は、生命には適さないだろう。
ただし、条件付きで例外はある。もし、プロキシマbの大気が、熱を地表全体にうまく循環できるほど、充分に分厚ければ、地表の気温はもっと心地良いものとなり、プロキシマbは、自転と公転が同期していても、なお生命を維持できる星になり得る。
もちろん、プロキシマbが、別の場所から今の場所に移動してきて、親星との距離が現在のものに落ち着いたということもあり得る。その場合、自転と公転の同期は起こらないだろう。
プロキシマbの大気の状態もまた、大きな問題だ。この観点からは、VPlanetは起こりうるシナリオを数多くシミュレーションする。このシミュレーションは、プロキシマbが豊富な水(地球にある水の数倍の量)を持って生まれたという仮定から始まる。VPlanetは、各仮想環境の中ではほとんどの水が分解してしまい、生じた水素が宇宙空間に出て行ってしまうと予測する。 研究シームは「もし、プロキシマbが誕生した時に有していた水の量が、地球の水量の10倍未満であったり、初期のプロキシマbに持続的な対流が起きて、マグマの海が減っていたり、あるいはその両方が起きたりしたら、現在のプロキシマbは干からびている可能性が高いです」という。
別の可能性もある。プロキシマbがかつて水素の層に包まれていた可能性だ。水素は宇宙空間に逃げていくが、それに守られていた水は、水素の層が消えた後も地表に残る。この場合、プロキシマbは現在、生命が暮らせる環境になっているだろう。ただ、その可能性がどのくらいあるか、バーンズの研究チームは数値を出せなかった。
要するに、VPlanetは、プロキシマbの状態として現在予測できる内容は、非常にさまざまだと示している。プロキシマbに生命は存在し得るし、存在しなさそうだともいえる。バーンズの研究グループは、こう結論づけている。プロキシマbは、金星に似て、乾燥して、熱くて、生命には適さないかもしれない。あるいは、プロキシマbは海王星に似ていて、水素の層に覆われているせいで、生物が生きるには地表が熱くなりすぎているかもしれない。
VPlanetはまた、こんな予測もしている。プロキシマbには酸素がたっぷりとあって、それが生命の進化を妨げてしまったかもしれない。よく知られているとおり、酸素は反応性が高く、物質を酸化させる力が強い。
しかし、一番わくわくする予測はこれだ。プロキシマbは地球に似ていて、液体の水と、生命の誕生を促す大気がある。この場合、プロキシマbは薄紫色の点に見えるだろう(プロキシマbの観測には、まだ成功していない)と、バーンズの研究グループはいう。
プロキシマbの親星は、太陽とはずいぶん色の違う赤色矮星だ。それなのに、プロキシマbの見た目が、地球の外見(きっと、あちらから見れば薄い青の点になるだろう)とあまり変わらないのは、ちょっと意外だ。
もちろん、宇宙生物学者は今、より多くのデータを必要としている。プロキシマbが今後、私たちの太陽系の外側にある惑星の中で、最も研究が進んだ星になることは間違いないだろう。次世代の宇宙望遠鏡は、研究者たちが切望していた視点から、プロキシマbの姿を浮かび上がらせるだろう。そこから集まったデータは、プロキシマbが辿ったと考えられる進化の軌跡について、可能性を絞り込むのに役立つだろう。
そうした観測施設の中でもトップに位置するのが、2018年に始動予定のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、2020年代中盤に始動予定の広域赤外線探査望遠鏡だ。30m以上に達する、次世代の地上型望遠鏡を使っても、地球の双子惑星の姿を垣間見ることができるはずだ。
これらの観測機器では、プロキシマbの大気について分光分析による調査(酸素、メタン、二酸化炭素、水素などの気配を探る)もできるようになる。それにより、プロキシマbの環境が、生命に適したものかを知るヒントも得られる。いつの日か、地球ではこんなニュースに驚くことになるかもしれない
天文学者たちが、プロキシマbの海が、きらりと輝くのを観測した。その惑星が自転するときに海に反射した、星の光だ。
もし実現すれば、なんとわくわくする瞬間になることだろう。
(関連記事:”arxiv.org/abs/1608.06919: The Habitability of Proxima Centauri b I: Evolutionary Scenarios,” “arxiv.org/abs/1608.08620: The Habitability of Proxima Centauri b II: Environmental States and Observational Discriminants,” “ESO discovers Earth-size planet in habitable zone of nearest star“)
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