中国、北京西部にある病院でのある日のこと。がん放射線科医のチョウチョウ・ウーは、フォトショップによく似たコンピューター・プログラムに肺の放射線画像を読み込んだ。すると、数千もの検査例で訓練したニューラル・ネットワークが結節に赤い四角で目印を付け、それをウー医師が丁寧に検証していく。ウー医師は、ニューラル・ネットワークが誤って悪性腫瘍の可能性があると目印を付けた血管を2カ所訂正した。だが、これまで彼女が見逃していた結節も見つけた。おそらく、がんの初期兆候を示すものだ。
中国ではこうしたツールを使って、保健医療に人工知能(AI)を積極的に加える動きが始まっている。ここ最近、欧米でも見られる傾向だ。だが、中国では患者の個人データや新しいテクノロジーの利用に対する規制が厳しくないうえに、自動化の必要性が欧米よりも高い。米国では人口1000人に対して2.5人の医師がいるのに比べ、中国では1.5人にすぎないからだ。
中国の動きは速い。北京に拠点を置くコンサルタント会社ヨウ・インテリジェンス(Yiou Intelligence)によると、現在、131もの企業が中国国内の医療産業へAIを導入しようと取り組んでいる。北京のある病院では2018年5月から、すべての肺の検査結果をAIアルゴリズムに通し、診断時間の短縮を図る予定だ。
中国政府は2020年までにAI産業を発展させる大規模な計画の第1弾として、コンピューターで医療診断を支援するテクノロジーを求めている(「国家レベルでAIに賭ける中国から何を学ぶべきか」参照)。調査会社のIDCが2月に発表したレポートによると、中国のAI保健医療サービスの市場は2022年には9億3000万ドルに達する見込みだ。大手テック企業も市場を狙っている。アリババとテンセント(Tencent)には、AI診断ツールの開発に特化した研究部門がある。
中国国民がAIを受け入れることで、AIテクノ …