日本ではほぼ無名だが、セラノスは、2003年にスタンフォード大学を中退しホルムズCEOが設立したスタートアップ企業だ。当初から血液検査の革新を約束し、指先から採取したごく少量の血液で病気などを検査できるという売り文句で会社の評価額は90億ドル近くまで上がった。だが、開発したとされる血液検査技術が本当に存在するのか疑惑を招き、企業価値はほぼゼロになった。今回の悪いニュースは実際のところ、そこまでひどいものではない。
8月はじめの科学関連会議の場でエリザベス・ホルムズCEOは新商品「miniLab」を発表した。ホルムズCEOによると指先の穿刺テストでジカウイルス感染症など、さまざまなことが検知できるとしていた。その後、セラノスは米国食品医薬品局(FDA)の認可を申請する準備として蚊媒介疾病が広く流行しているドミニカ共和国の人々で試験を実施した
しかしウォールストリートジャーナル紙によれば、FDAの監査でセラノスが試験前に安全手順を踏まなかった事実が明らかになり、セラノスは申請を取り下げた。
最近のセラノスは数々の失敗に悩まされているが、巻き返しのめどは立っていない。昨年さまざまなことが解明されだしたのは、ウォールストリートジャーナル紙の調査でセラノスが薄めた血液サンプルを標準機器にかけていたことが明るみに出たからだ。その後政府による非公開の調査があり、ろくに器具もそろっていない研究所の実態が明らかになり、またセラノスがあり得ないほど不正確な検査結果を出していたデータも見つかったことで、ついにホルムズCEOは自社の研究室への立ち入りが禁止された(上訴で覆る可能性がある)。
今回のニュース自体は大きな問題ではない。米国食品医薬品局(FDA)がセラノスのデータ採取法が適切でないと表明しただけでminiLabが役に立たないといっているのではないからだ。
その一方で、今回の過失により、セラノスは懲りずに不注意を続ける企業という印象が強くなった。ホルムズCEOは8月から事業を仕切り直すにあたって、行政が注視していることを承知していただろう。ホルムズCEOはなぜジカ熱検査のような新機能を付け加えたのだろうか? なぜコアテクノロジーがしっかり役立つことを証明しようとしなかったのだろうか?
ホルムズCEOがminiLabを発表した時点で、この分野の科学者たちは同氏にもセラノスの主張にも懐疑的だった。ひどい結果を出し続ける限り、セラノスの将来を楽観する者はあまりいないだろう。
(関連記事:Wall Street Journal, “Theranos Unveils ‘MiniLab’ Invention to a Skeptical Audience,” “Theranos Promised a Revolution, but Delivered Dangerous Errors”)