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Biogen’s Plaque-Busting Alzheimer’s Drug Shows Promise

ついに登場か?
アルツハイマー病治療薬

アミロイド班を除去するバイオジェンのアルツハイマー病治療薬に期待が集まっている。 by Antonio Regalado2016.09.01

バイオテクノロジー企業のバイオジェン(本社ボストン)が試験中のアミロイド班除去抗体は、アルツハイマー病の治療を初めて実現できる見込みがあり、アルツハイマー病の真の原因をめぐって長年にわたり続いてきた論争に決着が付くかもしれない。

バイオジェンの新薬「アデュカヌマブ」は165人の患者に投与され、バイオジェンによれば、最大量を投与された患者は、この薬によって脳のアミロイド班がほぼ消失した。アミロイド班は神経細胞を死滅させ記憶障害を起こすとおおむね考えられている。

アルツハイマー病の有効な治療薬は今まで市販されたことがなく、満足な結果が得られた試験薬もなかったので、これは非常に大きな賭けだ。バイオジェンはアデュカヌマブの試験にかかる費用を25億ドルと推定したが、もし成功すれば、巨大な利益をもたらすだけでなく、多くの人にとって、「老いるとは何か」の本質を変えてしまうだろう。

1兆ドル
2050年にアルツハイマー病患者の介護に米国が支出する推定支出額

バイオジェンのアルフレッド・サンドロックCMO(最高医療責任者)は報道関係者とのテレビ会談で、最も期待しているのはアデュカヌマブが広く予防的に使われることだと語った。心臓発作を防ぐためにコレステロール値を下げるスタチン系薬剤が使われるようなものだ。

「知りたいのは、もっと早期に治療できないかということです。症状が出る前に人々を治療できるのではないでしょうか」

バイオジェンは、予備的研究の結果を8月31日のネイチャー誌で発表したが、より大規模な2つの第III相試験が2700人のボランティアを動員して実施中であり、アデュカヌマブがアミロイド班を消失させるだけでなく記憶障害と死を防げるかどうかも判定される。サンドロックによれば、バイオジェンのこれまでのデータから、アデュカヌマブが確かに病気の進行を遅らせるという「手がかり」を得ている。

クリーブランド・クリニックのルー・ルヴォ脳保健センターのジェームズ・レバレンス所長は「私はこのデータに興奮を覚えていると言わざるを得ません」という。他の医師とともに、レバレンス所長がバイオジェンのデータを検討し始めたのは昨年のことで、その頃バイオジェンは、会議でこのデータのことを話し始め、ルー・ルヴォ脳保健センターが大規模な研究に参加できるよう準備していた。これまでに脳保健センターからは5人の患者が参加している。

「私たち全員がこの結果を目にしたとき、大勢が『こりゃ参った、何とも話がうま過ぎるじゃないか』と声を上げました。そこで私はこの話に飛びつく前に第III相試験に参加したいと思いました」(レバレンス所長)

バイオジェンはアルツハイマー病の最初期段階の患者を選んでいるが、この段階でアミロイド班除去薬は最も効果があると期待されている。選ばれた患者たちは、脳にアミロイド班があるがほとんど症状は現れていない。アルツハイマー病を予防するには、病気によって脳細胞が死んでしまう前でなければいけない。

アルツハイマー病による記憶の衰退は、多くの人々が老いとともに経験する記憶障害とは異なる。「通常の老化では情報を思い出すことが困難になります。名前を思い出せない。でも5分後には思い出せます。情報はそこにあるのです」とレバレンス所長はいう。アルツハイマー病の特徴は、新しい記憶の形成が不可能になることだ。多くの場合、最初に発病に気付くのは家族だ。先週のディナーで友人たちを家に呼んだことを、妻が思い出せないのに夫が気付く。実家を訪れた娘が、父親が自分を知らないのに気付く。

もしバイオジェンの新薬に効果があれば、「アミロイド仮説」を基本的に証明することにもなる。この有力な説によれば、アルツハイマー病の原因はアミロイドベータというペプチドが脳組織にアミロイド班として蓄積することだ。新薬はアミロイド班に直接取り付き、おそらくミクログリアという「清掃細胞」を呼び寄せてアミロイド班を取り除く。

ボイジャー・セラピューティクスのスティーブン・ポールCEOは「バイオジェンの研究がとても明確に示したのは、投与量を増やすほどアミロイド班が減少するということです。これがこの研究で最も重要なところで、非常に有望だと思います」という。ボイジャー・セラピューティクスは遺伝子治療企業で、これまでに共同開発した別の抗アルツハイマー病抗体を、現在イーライリリーが試験中だ。バイオジェンの新薬はアミロイド班をこのように分解する初の薬だとポールCEOはいう。

逆に、アデュカヌマブが患者に効果を現さなければ、科学者はアルツハイマーの取り組み方を根本的に見直さなければならなくなる。実際、アミロイド班はアルツハイマー病の副次的影響であり原因ではないと主張する人もいる。

また、アデュカヌマブにはやっかいな副作用もあった。一部の患者に脳の腫脹が起こり、治験を最後まで続けられなかった。副作用のため、薬が市販されても適用範囲を制限される可能性がある。

アルツハイマー病の進行を遅らせる薬のもたらす影響は、いくら強調してもしすぎることはない。病気の進行を5年遅らせることができれば、患者数は半減するだろう(多くの患者は別の原因で亡くなる)とポール所長はいう。いくつかの推計によれば、米国でアルツハイマー病患者の介護にかかる費用は、2050までに毎年1兆ドルに跳ね上がると見られている。

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アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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