UPSの従業員には、毎日何十回も判断を下す場面がある。物流施設での仕分け作業中に荷物を誤ったベルトコンベアに乗せたり、荷物を積み込む配送トラックを間違えたりと、従業員が判断を誤ると配送の遅延につながってしまう。
数々のミスを効率的に回避することが、UPSが生き残るための鍵だ。Eコマースブームの現在、UPSが1日に配達する荷物は3100万個にも上る。この大量の荷物をすべて追跡し続けるのは至難の技。しかも、オンライン注文の配送先の多くは遠く離れた個人宅だからさらに厄介だ。1カ所ごとに複数の荷物を配達・集荷することが多い企業間輸送に比べ、個人宅への宅配はコストがかかる。
最近、アマゾンが低コストの宅配サービスを準備中というニュースが流れた。最高の顧客追跡能力に加え、人工知能(AI)の専門性を持つアマゾンが、UPSに熾烈な競争を挑みつつあるということだ。
この試練に立ち向かうために、UPSは高度な分析が重要だと考えている。2016年には自社施設内でのデータ収集を開始し、現在では収集したデータを利用しておよそ25のプロジェクトが進められている。一連のプロジェクトは「EDGE (Enhanced Dynamic Global Execution)」と呼ばれ、作業員による朝の配送トラックへの荷物の積載方法から、年末年始の繁忙期に雇用する大量の臨時作業員の研修方法に至るまで、あらゆる点で変化を引き起こしてきている。最終的には、配送車両の洗車時期までもデータによって決定される予定だ。
UPSはEDGEプログラムの完全な導入後に、年間2億ドル〜3億ドルのコスト削減を見込んでいる。
EDGEは、220の国と地域へ配送サービスを提供しているUPSが着手しているテクノロジー・プロジェクトの1つにすぎない。UPSが1年間にテクノロジーに投じる10億ドルの中には、ドライバーが利用するツールの更新も含まれている。具体的には、荷物の伝票コードを読み取り、顧客からサインを受け取るモバイルコンピューティング機器や、最も効率良く回れる配送ルートを算出してドライバーに提示する「ORION(On-Road Integrated Optimization and Navigation)」と呼ばれる地図作成ソフトウェアなどだ。UPSのフアン・ペレツ最高情報工学責任者によれば、コストと遅延を最小限に抑えるために、物流施設内で荷物を自動仕分けする機械にも投資しているほか、状況に応じて航空機とトラックの間で輸送手段を切り替えるテク …