ミシェル・ダーデンゴは15年間にわたって、自分の父親が次第に記憶を失い、うつ病を進行していく様子をどうすることもできずに見守っていた。体力が衰えていくにつれ、自分のこともできなくなった父は、2003年に68歳で息を引き取った。ハンチントン病によって、彼女の父の生涯は予期していたよりも短いものとなった。
だが、カナダのバンクーバーに住むダーデンゴにとって辛かったのは、父を失ったことだけではなかった。父を死に至らしめた遺伝子変異を自分自身も受け継いでいる可能性が50%の確率であることを知っていた。
52歳だった2015年に、ダーデンゴは自分の体が前兆を示しているのに気づいた。職場でソフトウェアのデバッグ作業についていくのが難しくなった。毎日の犬の散歩で体がよろめくことがあった。これらの症状について医者に相談に行ったとき、ダーデンゴはすでに自身に下されるであろう恐ろしい診断を自覚していた。
事実に直面しながらも、ダーデンゴはわずかな希望を持っている。病気による衰退を食い止める効果があるとされる実験的な医薬品を試験する研究に参加しているのだ。
ハンチントン病は脳の神経細胞を徐々に破壊し、修復不能な脳の破損をもたらす遺伝性疾患だ。治療法はない。薬物療法によってうつ病や不随意運動などの副次的影響を抑えるのみだ。最終的に患者は、思考、歩行、発話の能力を失う。
ダーデンゴが試している治療薬は、アイオニス・ファーマシューティカルズ(Ionis Pharmaceuticals)が製造しているものである。病気の遺伝的な根源を修正し、脳の損傷の遅延や回復を目指して開発が進められている数少ない新しい治療法の1つだ。25年前に科学者によって、ハンチントン病の原因は特定の遺伝子における障害だと明らかになった。だが、治療薬の開発には時間がかかり、今になってようやく患者を治療するための遺伝子療法が少しずつ実用化し始めている。
長い道のり
ハンチントン病の遺伝子であるHTTは、1993年に研究者らがこの病気にかかったいくつかの家族を調査して発見した。人間は誰でもこの遺伝子を持っている。しかし、ハンチントン病の患者はこの遺伝子が変異していて、そこにあるべきではないDNAの余分な文字列が、遺伝子の吃音のように反復されている断片が含まれている。
最終的に科学者らは、この反復によって遺伝子がハンチントンと呼ばれるタンパク質の異常な形態を生成することを見い出した。通常の形式では、このタンパク質は脳の発達に必要となるが、異常な形式の場合は脳の神経細胞でスパゲティのボールのように塊に …