マサチューセッツ工科大学(MIT)キャンパスのはずれにあるスタートアップ・ラボ用のスペース。椅子に腰掛けたアレック・ニールセン博士は、ノートパソコンを開いてキーボードから命令を打ち込む。遺伝子組み換えされた酵母細胞が黄色く光るようにするのだ。ニールセン博士は、酵母細胞に与える糖(アラビノースとラクトース)の種類をコンピューター・プログラムに入力して、通常クラゲの体で見つかる蛍光タンパク質を作りだすように指示する。
およそ60秒もするとコンピューターは、DNAの約1万1000文字のリストを、回路図のようなものと一緒に出力する。
ニールセン博士はアシモフ(Asimov)というスタートアップ企業の創業者であり、CEO(最高経営責任者)である。アシモフは極めて複雑な遺伝子組み換えの設計を自動化することを目指している。アシモフの「セロ(CELLO)」と呼ばれるソフトウェアは、電子回路や何十億ものトランジスターを組み込んだコンピューター・チップの設計に使われるソフトウェアをモデルとして作られた。
生物学の研究は、ほとんどを実験が占める。試してみるまで何がうまくいくかわからない。だが、アシモフは、遺伝子組み換え有機体を作り出す際に、あてずっぽうをいくらかでもなくせると考えている。「私たちは数年前に、この非常に複雑な問題をコンピューターのプログラミングと同じくらいシンプルにしようと決めたのです」 …