ロシア政府の指揮下にあるとみられるハッカーが、アリゾナ州やイリノイ州の有権者名簿を攻撃するのに、苦戦しているようだ。一連の事象は、ハッカーが用いる手法が極めて一般的で対処可能な範囲であっても、米国の投票制度がいかに脆弱であるかを明確に示している。しかし、セキュリティの専門家は、米国の民主主義への最大の脅威は、実際には技術的というより精神的な脅威だという。
米国連邦捜査局(FBI)の7月の報告によれば、2つの州で有権者名簿がハッカーの攻撃を受けた。攻撃を受けたイリノイ州の有権者名簿からは、20万人分の有権者登録情報が盗まれたとされている。アリゾナ州では、1人の職員のログイン情報がマルウェアのダウンロード終了後に不正アクセスを受けたが、情報は盗まれなかったという。
一連の事件に関する報道では、ハッカーが大統領選の有権者名簿に侵入したり、有権者登録情報を削除したりすることを大きく懸念しているが、実際には、有権者名簿はこれまでもときどき侵入されてきた。それに、たとえ登録情報が削除されても、書類上では未登録の有権者が投票所に行って暫定票を投ずれば、有効票として扱われる可能性が残っている。
したがって、より大きな脅威は、ワイアード誌の記事のように、有権者が米国の選挙制度を信用しなくなったときに何が起きるかだ。
「私が心配しているのは、米国の大統領選に技術的な混乱が及ぶことではありません。そのような混乱が起きる可能性は、まだ極めて低いです」とキングス・カレッジ・ロンドン(イギリス)でサイバーセキュリティを研究するトーマス・リッド教授はいう。「私たちがよく目にする諜報活動の典型に、物事を疑い、疑いを生み、不安を作り出す手法があります。多くの人が猜疑心を持てば(中略)このような精神的な脆弱性は修復できません。
大統領選のセキュリティに懸念が高まる(特に、ロシアのハッカーが民主党全国委員会から電子メールを盗み、今年初夏の全国大会の期間中に民主党の威信を失墜させてから)のは当然だ。こうした最近の事象は対処が難しいとはいえ、面倒な理由は恐らく、純粋に技術的な話だった当初とは異なる。
(関連記事:Yahoo News, Washington Post, Wired, Motherboard, “These States Are at the Greatest Risk of Having Their Voting Process Hacked)