米国で、田舎者と貧困街に
インターネットは不要の判決
非都市部や貧しい地域に自治体がインターネット接続を提供することを阻止しようとするケーブルテレビや通信事業者の動きに、テネシー州とノースカロライナ州が加わった。 by Jamie Condliffe2016.08.30
米国の一部では、今でもインターネットに接続できないことがある。だが最近の裁判所の判決により、貧しい地域や非都市部にブロードバンドを徐々に普及させようとする一連の新構想が頓挫する恐れがある。
米国中の多くの市では、独自のブロードバンド計画により、商用プロバイダーが十分なサービスを提供できてない地区に高速なインターネット接続サービスを提供しようとしている。こうした「自治体ブロードバンドネットワーク」計画は、商用プロバイダーよりも低価格でインターネット接続サービスを提供し、市内非都市部(ケーブルテレビや通信事業者がインフラを整備しても費用対効果が不明な地域)の住民にインターネット接続の利用範囲を拡げようとしている。こうした計画は、すでに、コロラド州、ワシントン州、ノースカロライナ州、テネシー州など、全米各州で実施されている。ロサンゼルス市とサンフランシスコ市も同様の構想を検討中だ。
しかし、最近、米国第6巡回区連邦控訴裁判所は、テネシー州とノースカロライナ州で自治体ブロードバンドの拡大を阻止する法律を支持する判決を下した、と ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。自治体ブロードバンドネットワークを後押しするFCC(連邦通信委員会)と州議会議員が対立しているのだ。
判決は、全米で進められている同様の取り組みに大きな問題を投げかける。FCCは予算執行の不効率性を理由に、最高裁に上訴していない。しかし、自治体ブロードバンドネットワークの支持者は、非都市部や貧しい地域でオンラインへのアクセス機会を増やすために、こういった州レベルの法的な争い(自治体ブロードバンドネットワークは他の20州でも妨害にあっている)で、FCCが戦い抜くよう求めている。ただし、市当局には、ケーブルテレビや通信事業者が、低価格のプロバイダーとの競争を防ぐ目的でこの計画を利用することを懸念する人もいる。
こうした状況は、以前FCCが「永続的情報格差」と呼んだ状態を悪化させるだけだろう。都市部のブロードバンドが高速化する一方で、非都市部の通信インフラは依然として非常に不十分だ。最近では、各地域の協同組合が、農村部に高速インターネットのインフラを構築してきた。しかし、このような取り組みは、それぞれの地域では有効でも、国全体をつなぐことにはならない。
必要なのは、情報格差をなくす大規模な政策だ。ヒラリー・クリントン候補は大統領選で、2020年までに米国内のすべての家庭をブロードバンドで接続すると約束している。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、専門家は計画の実現性を疑問視している。そもそもクリントン候補は計画の費用を明らかにしておらず、政府のどの部門が計画を実行するのかも不確定で、さらに、共和党が必要な法律を支持するかもわからないため、実現は難しい、というわけだ。なお、ドナルド・トランプ候補は、ブロードバンドの提供について特に発言していない。
(関連記事:New York Times, Wall Street Journal, “America’s Broadband Improves, Cementing a Persistent Digital Divide,” “Locally Owned Internet Is an Antidote for the Digital Divide,” “Technology and Inequality”)
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クレジット | Photograph by Gerry Dincher | Flickr |
- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。