量子世界の勝利に向けた競争は、テクノロジーの中でも特に熾烈なものとなっている。米国と中国の両国は、量子効果で可能になる奇妙な物理法則を有効利用するための新たな手法の開発に、数十億ドルを投じてきた。そこで約束されているものは、コンピューティングや通信における新時代であり、そしてもちろん、想像を絶する富である。
こうした興奮の中、世界の一部の地域が置き去りにされつつある。欧州は、量子物理学における革新の豊かな歴史を持ちながら、近年のグローバルな競争においては遅れをとっている。
欧州委員会が2016年に、「量子テクノロジー・フラッグシップ(Quantum Technology Flagship)」として知られる研究に10億ユーロを投資すると発表したのはそのためである。このプロジェクトの目標は、4つのテクノロジーの開発にある。その4つとは、量子通信、量子シミュレーション、量子コンピューティング、そして量子センシングである。発表から約2年が経った現在、これらはどのような状況なのだろうか。
2017年12月上旬に「欧州量子テクノロジー・ロードマップ(European Quantum Technologies Roadmap)」が公表されたおかげで、それを垣間見ることができる。このロードマップは、これからの10年間におけるプロジェクトの目標を設定した文書の改訂版である。この文書では特に、欧州以外ではあまり関心を集めていない2つの新興領域である量子ソフトウェアと量子コントロールについての概要が述べられている。これら2つは、欧州における量子テクノロジーの未来にとって重要な意味を持つと考えられる。
文書は、重点領域の概要説明から始まる。1つ目は量子通信である。量子通信は、完全な秘匿性を物理法則によって保証した状態で、ある場所から別の場所にデータを送信することを可能にする。近年、その重要性はますます増大している。なぜなら、現在一般的に用いられている暗号は、もう1つの量子テクノロジーである量子コンピューティングによって、もうすぐ突破されそうだからである。セキュリティ保護された通信は現代社会の基盤の1つであり、このおかげで電子商取引が可能となり、企業や政府、軍事通信の秘匿性が保たれている。
問題は、既存の量子通信システムは、運用管理が高価で複雑であるということだ。量子通信の進化の次の段階として、これらのシステムをより扱いやすくする必要がある。
欧州委員会によれば、これは近い将来に実現するという。「今後3年間に、低い展開コスト、10メガビット毎秒以上の高い暗号鍵配送速度、多重化に対応した、大都市圏ネットワークにおける自律的(量子通信)システムの開発が見込まれています」としている。
もう1つの問題は、量子通信は100キロメートルほどのポイント・ツー・ポイント接続でしか動作しないという点である。そのため、信号をより遠くに送れるように、研究者たちは量子ルーターの開発にも取り組んでいる。報告書では「6年後にはおそらく、(量子通信システムによる)テストベッド・ネットワーク上で、信頼できるノードや、高高度プラットフォーム・システムもしくは衛星を経由した長距離ネットワーク、さらにはマルチノードあるいは切替可能な都市間ネ …