中国が「排除」したって、
ビットコインは終わらない
ビットコインなどの暗号通貨に対する姿勢は国によって揺れている。一時、ビットコインの取引の大半を占めた中国は、ブロックチェーンを評価しながらも、ビットコインの封じ込めに躍起になっている。 by Emily Parker2018.01.19
最も古くから運営されている中国のビットコイン取引所、BTCCのボビー・リーCEO(最高経営責任者)が中国規制当局に目をつけられたと気づくのに、そう時間はかからなかった。BTCCは、中国政府の認可を受けているわけではなく、かといって明らかに違法でもないグレーゾーンにあった。ビットコインは世界中に電子的に送金できる分散型電子通貨だ。人気が高まっているため、中国規制当局が神経をとがらせたというわけだ。2016年、世界で最もビットコインの取引量が多かったのは人民元だった。
2017年1月、BTCCは中国人民銀行の取り調べを受けた。9月にはスタートアップ企業に支持されているICO(新規仮想通貨公開)の禁止を中国政府が発表した。ICOとはデジタル・コインやデジタル・トークンを使った資金調達方法のことだ。そのときですら、BTCCのような取引所は安全だとリーCEOは考えていた。9月下旬、一般市民による市場でのビットコイン購入を困難にするため、中国規制当局はBTCCなどの仮想通貨取引所の停止を明らかにした。
リーCEOは、ショックを受けたりパニックを起こしたりしなかったが、失望した。「あぁ、とうとうパーティーが終わったのだな」と思ったという。「パーティーはいつか終わらなければなりません」。
ビットコインは、金融危機が起こった2008年にサトシ・ナカモトという謎の人物によって発表され、誕生した。いかなる中央機関の関与も受けていないことが、政府や大手銀行に不信感を抱いている人々に受けたのだ。それ以来、ビットコインは各国政府の課題となった。特に2017年は投機家の間で人気が沸騰し、1000ドル以下だったビットコイン価格が2017年の間に1万ドル超まで押し上げられ、注目度が高まった。
政府はビットコインのような新しい通貨を容認すべきだろうか。匿名性をある程度保ったまま送金しやすいという特徴はマネーローンダラーなどの犯罪者に魅力的に映るはずだ。または金融政策の全面統制のために、規制するべきだろうか。あるいは、日本政府のようにビットコインを決済手段として認定する法律を施行し、受け入れるべきだろうか。
ビットコインの取引は、世界中のコンピューター・ネットワークによって確認・更新される公開台帳であるブロックチェーン上に記録されている。分散管理という特性から、どんな政府も仮想通貨を完全に止めることはできない。そうした基本的な信念の真価が、中国の規制によって問われている。
BTCC閉鎖のニュースで、ビットコイン市場は一時的に下落した。結局、中国は管理不能なものを表面的にでも管理しようとするのだ。中国政府は、大勢の検閲官やグレート・ファイアウォールを使って驚くほど効果的に中国のインターネットを国外と隔ててきた。グレート・ファイアウォールは、中国国内のオンライン・コミュニティや商業サイトの活発な運営は認めるが、フェイスブックやツイッターなどはブロックする情報検閲システムである。中国が独自のデジタル不換通貨(金の裏付けのない通貨)を作り上げようとしているのは、偽造行為の取り締まりだけでなく、金融取引を安価で行ない、追跡しやすくするためだろう。
すべてがビットコインによって良くない兆候だった。だが、中国当局による規制導入後、数週間して取材した中国の暗号通貨コミュニティのほぼ全員が、驚くほど何も無かったように生き生きとしていた。中国の規制は見た目ほど包括的ではないと、ビットコインのような仮想通貨の未来に楽観的だった。
速度制限
中国の暗号通貨コミュニティは、まるで東洋のシリコンバレーのようだ。カジュアルな服装の社員は共有のワークスペースで働き、ホワイトボードに走り書きしている。みんな国際的で、ビジネスチャンス開拓のためならニューヨークや東京行きの飛行機に飛び乗る準備ができている。「1995年頃のインターネット業界を彷彿とさせますね。全員がお互いを知っています」と、ブロックチェーン投資家のガオ・ドンリャンはいう。インターネット勃興期の心棒者のように、中国のブロックチェーン・コミュニティはブロックチェーンが世界を変えると信じていると、ガオはいう。
このコミュニティの中に、上海を拠点とするブロックチェーン・スタートアップ企業アンデュイ(Andui)のルー・ビンCEOがいる。ルイジアナ州立大学で博士号を取得した精力的なルーCEOは、さらに複雑な金融取引のためにビットコインを応用して作られた仮想通貨ネットワークであるイーサリアムの中国名を「以太坊」とした人物だ。
2017年の8月下旬、ルーCEOはブロックチェーン・テクノロジーを使った通信プラットフォーム、ビーフー・ドット・コム(Bihu.com)の資金調達にICOを活用した。 ICOを実施する際、スタートアップ企業は新しくバーチャル・トークンを発行する。発行したスタートアップ企業の製品を使うのにトークンが必要となることが前提となっていることもある。つまり理論的には、製品需要が高ければ、こういったバーチャル・トークンの価値が上がるわけだ。
ビーフーは、ツイッターやレディット(Reddit:米国版2ちゃんねる)を目指している。異なる点があるとすれば、ユーザーの書いた内容によってプラットフォーム独自のトークンである「鍵」を報酬として与える点だ。
ルーCEOはビーフーのICOに大興奮だった。数時間のうちに2000万ドル超を調達したのだ。ベンチャー・キャピタルではこれだけの成果を上げられなかっただろうという。だが9月、中国でICOが禁止され、ルーCEOは調達したすべての資金を返金しなければならなくなった。
ルーCEOは冷静に対処したが、「チーム内に挫折感」があり、さまざまなことが「エネルギーの無駄」だったことを認めた。しかしそれでもルーCEOは、ICO禁止令によって平均的な投資家がICO詐欺から守られたと考えている。
実際、中国の暗号通貨コミュニティで取材した全員が、 ICO禁止令を支持するか少なくとも好意的な考えを持っている。筆者は中国のICOの90%が金融詐欺だと再三に渡って聞いている。ICOでは特定のプラットフォームで使用可能なトークンを購入するが、そのプラットフォームがまだ存在していない場合も、決して存在しない可能性がある場合も、あるいは完全な失敗に終わった場合でもトークンの購入は可能であり、詐欺師たちに利用されやすいのだ。
もちろんICO詐欺は、中国に限ったことではない。2017年、米国証券取引委員会(SEC)が、建前としてダイヤモンドや不動産投資の保障がついている2つのICOを告発した。いずれのICOも、「実在する業務」がなかったとSECは述べた。中国では比較的経験の浅い投資家の参加が増え、詐欺問題が悪化してきているようだ。
別の暗号通貨であるネオ(NEO)の創業者ダ・ホンフェCEOによれば、ICO規制は中国にとって必要だったという。ネオは …
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