2008年にカリフォルニア北部で最初に発生して以来、アジアを原産地とするミバエの一種であるオウトウショウジョウバエは、かみそりのように鋭い産卵管で、州のサクランボ農場に被害を与え続けてきた。
普通のイエバエなどが腐りかけた果実に卵を産みつけると異なり、この外来種のハエは熟しつつある果実に穴を開けてだめにしてしまう。全米の農業被害総額は年間約7億ドルに達する。
カリフォルニア州のサクランボ生産農家は、このハエを安価に駆除する方法を考えている。そこで期待を寄せているのが、遺伝子学者たちが開発したテクノロジー「遺伝子ドライブ」である。遺伝子ドライブを用いて、改変したDNAを野生のハエの間に広め、殲滅しようというのだ。
遺伝子ドライブは現代生物学の発明の中でも、最も広く論争の的となり、そして恐れられている技術の1つだ。反対する人たちは遺伝子の「原子爆弾」と呼び、禁止されるべきだと主張している。一方で、例えばマラリアを広める蚊を全滅させるなど、これまでにない公衆衛生への介入が可能になると見ている人たちもいる。
現在、遺伝子ドライブの商業的な使用が初めて検討されている。カリフォルニア サクランボ委員会(California Cherry Board)の資金提供を受けたカリフォルニア大学リバーサイド校の研究者たちは、この外来害虫に遺伝子ドライブを組み込み、商業的に影響のある種にこの技術を初めて適用した。
カリフォルニア大学リバーサイド校が研究室で実施している取り組みのほかに、カリフォルニア大学サンディエゴ校からスピンアウトして設立された2社も遺伝子ドライブの商業的使用を目指している。アグラジーン(Agragene)は、植物と昆虫の遺伝子を変化させようとしている。姉妹会社のシンバル(Synbal)は実験用マウスや、ひいてはペットの犬の遺伝子操作を速める方法として遺伝子ドライブの利用を考えている。
「改変しようとしている生物が何であれ、遺伝子を正確に制御できるかどうかです」と語るのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校の両スピンアウト企業の最高経営責任者(CEO)を務めるデビッド・ウェブである。いずれの企業も資本調達はまだできていない。
遺伝子ドライブは、いわゆる利己的遺伝子を介して働く。自分自身を複製し、通常であれば半数ほどにしか遺伝しない遺伝子を、その動物の子 …