インテルも参戦で激化する
AI特化型チップ戦争
新興企業に勝算はあるか
人工知能(AI)アプリケーション向けの専用チップを開発するスタートアップ企業が増えている。AIアプリの実行に特化することで、従来のチップよりも数倍から100倍程度の性能を達成するとしているが、大手との競合や市場の移り変わりに伴うリスクも指摘されている。 by Martin Giles2017.11.30
英国を拠点とする半導体スタートアップ企業グラフコア(Graphcore)の共同創業者であるナイジェル・トゥーンCEO(最高経営責任者)は、つい2、3年前まで、多くのベンチャーキャピタリストが半導体チップへの投資というアイデアを冗談か何かだと思っていたようだという。「打ち合わせでアイデアを出すと、床を転げ回って笑うんじゃないかというようなパートナーが多かったのです」。今ではチップ起業家に対する受け取られ方がずいぶん変わってきた。投資家は床を転げ回る代わりに、小切手帳を広げるようになったのだ。
シリコンがまさにシリコンバレーという名前の由来であるにも関わらず、ベンチャーキャピタリストがシリコンに慎重になるのにはもっともな理由がある。半導体チップの開発には、ソフトウェア開発よりもはるかに多大なコストがかかる。しかも最近まで半導体チップには、新しいバージョンだとはっきり分かるような革新的なイノベーションの余地はほとんどなかった。若い企業がたとえ生き残れたとしても、その企業が製造するチップの材料であるシリコンウェハーよりも薄いくらいの利益率に終わってしまうことが多い。深い業界知識に加えて十分な資本力までも備えたインテルやエヌビディア(Nvidia)といった現役の巨大企業が手強い競争相手なのだ。
状況が変わったのは、人工知能(AI)が重要な新しい半導体企業を創業する格好の機会になるのではないかと考える投資家が増えたからだ。民間企業の取引を追跡するサービス会社であるピッチブック(PitchBook)のデータによると、ベンチャーキャピタリストは今年、AI特化型チップのスタートアップにすでに1億1300万ドルを投資している。これは2015年全体の額のほぼ3倍である。
グラフコアはこうした状況の変化の恩恵を受けてきた企業の1つだ。最近も、シリコンバレーの有力ベンチャー企業であるセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)から追加で5000万ドルの資金調達を受けている。ほかにも、米国のミシック(Mythic)、ウェーブ・コンピューティング(Wave Computing)、セレブラス(Cerebras)、中国のディーファイ・テック(DeePhi Tech)、カンブリコン(Cambricon)といった多くのチップのスタートアップが、AIアプリケーション向けの新しいチップを開発中だ。この分野で最も著名な中国のスタートアップの1つであるカンブリコンは、中国政府系ファンドの主導による初期投資で1億ドルを調達した。
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