長い間待ち望まれていた50万人分の英国人の遺伝子情報と健康のデータが、今年の夏に英国の公的コンソーシアムから公開された。科学者たちによると、同データの公開により、新しい医薬品の開発や検査のスピードを上げる可能性のある遺伝学的発見が生み出されているという。
そのデータは、科学者たちが406の異なるプロジェクトに取り組んだ後、UKバイオバンクによって2017年7月に公開された。DNAデータと、誰が糖尿病を患っているかから、コーヒーと紅茶のどちらが好きかに至るまであらゆる情報を含んだ数テラバイトのデータをダウンロードできる。
遺伝子と食事の間にはどのような関係があるのか、DNAと統合失調症の間はどうなのか。体重検査、サーベイ調査および国立病院の記録に基づいて、英国人ボランティアから測定された2500の異なる表現型(もしくは特性)を持つこのデータ・ダンプは、この種のデータとしては最大規模だ。未解決の問題に対して最高のチャンスを提供する。
ほんの数年前までは、遺伝子を人間の病気に紐づけることは一生の仕事になるくらい時間のかかるものだった。科学者は苦心して患者を集め、DNAの提供を要請し、しばしばそれらのデータをフォートノックス(金塊貯蔵所がある米軍基地)の金塊のように死守したものだ。
しかし今や、グローバルなデータ交換により、人々の健康状態に関する情報が共有され、クラウド上に蓄積され、急速に進化するコンピューター・ツールを使って研究できるようになりつつある。「これはデータの利用可能性に関する大きな変化であり、開かれた科学のムーブメントなのです」と、マサチューセッツ州ケンブリッジのブロード研究所に所属する遺伝学者のベンジャミン・ニール博士は言う。「このムーブメントは他の人にも追従するようにプレッシャーをかけるものであり、重要な心理的変化を促すと思います」。
遺伝子バンクは、民間でも公的機関としてもすでに数多く存在している。アムジェン(Amgen)に買収されたデコード・ジェネティクス(DeCode Genetics)は、1996年にアイスランド人の遺伝子の「採掘」を始めた。カリフォルニア州のトゥウェンティー・スリー・アンド・ミー(23andMe)は、消費者直結型の検査で収集した200万人以上の顧客の遺伝子データを保有しており、データへのアクセス権を製薬会社に数百万ドルで販売している。
UKバイオバンクは、基本的に無料かつ公的なリソースとして管理されているという点で、それらとは異なっている。データにアクセスするためのキーが7月に、科学者たちに一斉に提供されたのだ。「競技場がすっかり平らにならされてしまったようなものです」と、巨大製薬会社のグラクソ・スミスクライン(GSK)で遺伝学の主任を務めるマシュー・ネルソンは言う。「何千万ドルも何億ドルも費してバイオバンクを構築する代わりに、2500ドルのアクセス料金を払えば済むのです」。
科学のスクランブル
7月に公開されたデータは、英国の科学界・医学界のリーダーたちが20年近く前に発案した計画の成果だ。英国政府と大規模慈善事業から2億5000万ドル …