「目をつけられたら終わり」
アンチ科学政権下で萎縮する
米国の生物学者たち
遺伝子編集などの分野で、最近の生物学は目覚ましい進歩を遂げている。しかし、科学顧問の長期不在に象徴される「アンチ科学」のトランプ政権下で誤った関心を引くと、研究に制限をかけられかねないと研究者たちは恐れている。 by Emily Mullin2017.11.14
物議を醸しだしかねない最先端技術の研究に携わる生物学者たちは、最近の科学の進歩がドナルド・トランプ大統領の関心を引いたらどうなるのか恐れていると口々に語る。
トランプ大統領は今のところ、幹細胞、人間の胚細胞、遺伝子編集といった研究に関して公に発言していない。しかし研究者たちは、いつ大統領が扇動的なツイートを発したり、研究に制限をかける政策を発表したりしないかと身構えている。トランプ政権が誕生してから10カ月、その間にもデリケートな技術は大きく進歩し、研究者はリスクがますます高まっていると懸念する。
今年だけでも、米国の研究者は、正常に機能する人工子宮、 クリスパー(CRISPR)を用いたヒト胚細胞の遺伝子異常の修正、合成胚細胞の製造における目覚しい前進、そして3人の親のDNAを使った体外受精など多くの成果をあげている。
「大統領は、今のところ私たちに注意を払っていませんが、もし気づかれれば面倒なことになるでしょう」。ピッツバーグ大学の幹細胞研究者ジェラルド・シャッテン博士は、10月にニューヨークのプラザホテルで開催された学会で、30カ国130人の不妊治療専門家を前にしてそう語った。
研究者たちは、何かひとつでも新たな進歩があれば、トランプ政権による研究の規制措置を招くのではと恐れている。ジョージ・W・ブッシュ元大統領も、2001年に幹細胞研究への連邦予算に規制をかけていた。
「前例があります」と語るのは、非営利の科学支援団体・憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)の科学と民主主義センター(Center for Science and Democracy)で研究責任者を務めるグレッチェン・ゴールドマン博士だ。「研究が政治的な物議を醸しだす可能性があることを認識している研究者たちから、懸念が寄せられています」。
最悪のケース
科学者をさらに不安にさせているのは、最先端の生物学に関するトランプ大統領の考えが不明な点だ。トランプ・ツイッター・アーカイブを見ると、これまで3万件以上のツイートを発している大統領だが、DNAや幹細胞、遺伝子編集に関してはまだ一度も触れたことがない。
一方、議会もまた2015年6月以降、そうしたテクノロジーに関する公聴会を開いていない。
「これらの話題に関してトランプ大統領はそれほど強い信念を持っていないようですが、こうした研究の行方について快く思っていない人々を政 …
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