私たちはロボットや人工知能(AI)が仕事を奪うと心配するのではなく、人間と機械が協力する新たな道を探るべきだ、とマサチューセッツ工科大学(MIT)コンピューター科学・人工知能研究室(CSAIL)のダニエラ・ラス所長はいう。
ラス所長は、「人間と機械は争うのではなく、協力すべきだと思います」とMITテクノロジーレビュー主催の年次イベント「EmTech MIT 2017」の基調講演で語った。
これからの時代、テクノロジーが雇用にどう影響するかは、経済学者、政策立案者、科学技術者にとって、大きな問題となっている。ロボット工学とAIの研究で世界の先陣を切るCSAILは、来たる変化の波に大きな関心を寄せている。
専門家の間では、自動化とAIがどの程度仕事に影響するかについて、意見が異なる部分もある。また、新しいビジネスが作り出されることで、現在の仕事がどう埋め合わされるかについても意見が違う。11月上旬、ラス所長とMITの研究者は「人工知能と仕事の未来」と題したイベントを企画した。講演者の中には、これから直面するであろう大きな変化に差し迫った警告をする者もいた (「『AIはすでに仕事を奪っている』、元グーグルの中国トップが明言」参照)。
人間の持つ技能を拡張するAIの可能性は頻繁に語られているものの、実際のところはあまり研究されていない。ラス所長はハーバード大学で行われている研究を紹介した。がんの診断について、熟練医師とAIとの能力を比較したものだ。医師のほうがAIよりも数段優れていることが分かったが、両者が協力すると、さらに優れた能力を発揮することが判明したのだ。
ラス所長は、AIは法律事務所や製造業でも人間の能力を増強する可能性があると指摘した。優れた自動システムが商品のカスタマイズや流通で重要な役割を担うかもしれない。
ロボット工学は最終的に、思いもよらない形で人間の能力を高めてくれる可能性がある。ラス所長は例として、視覚障がい者の自動運転車での移動を支援する、MITのプロジェクトを挙げた。まだ初期段階だが、脳コンピューター・インターフェイスが大きく進歩し、将来的にはロボットとやり取りできるのではないかと考えているという。
ラス所長は仕事の未来について強気の姿勢だが、心配の種となる経済現象が2つあると話した。1つは多くの仕事のある部分について、自動化によって質が低下すること。もう1つは米国において国内総生産が伸びていないことだ。新たな経済チャンスに尻込みしているのだ。
しかしラス所長は、AIは依然としてその活躍の場を限られているからこそ、仕事における単調な要素はほとんど排除されると期待している、と語った。「単純作業にはかなり有効です。所定の作業を機械に任せ、そのかわりに興味のあることに集中できると思うと、胸が高鳴ります」。