人々は毎日、250京バイトのデータをユビキタス機器から取り出している。百万行のスプレッドシートから地元のコーヒー店の写真まで、その中身はさまざまだ。データは情報のかたまりだが、人間が自然に理解できるようなものではない。ナラティブ・サイエンス(Narrative Science)の共同創業者で首席科学者のクリス・ハモンド博士は、人間が理解できないデータを言葉に変換している。
11月7日、EmTechカンファレンスでハモンド博士は、「言葉はそれ自体が不思議なもので、人間固有のものです。犬なら教えたことができるようになりますし、カラスは道具を使います。ビーバーはダムを作ります。でも人間と同じように言葉を扱う生物は他にいません。機械は単語は扱えますが、言葉には苦労しているのです」と語った。
ハモンド博士によると、人間は生来的に複雑な考えを頭の中で結びつけるが、それができるのは言葉と触れ合っているからだという。人間は生活の大部分で機械を使うが、人間と同じ言葉を使って機械と意思疎通を図ることは、かつてないほど重要なことになっている。
人間の能力を機械に学習させるために、ナラティブ・サイエンスはAIを活用している。「クイル(Quill)」と呼ばれるソフトウェアは、野球のボックス・スコア(出場チームの全選手名、ポジション、試合中の守備や打撃データを符号や数字などで記入した記録)を取得して内容を要約し、「物語」を書き出す(「Who Will Own the Robots?」参照)。すると、目が回るような数字の寄せ集めをじっと見つめるかわりに、知りたいことを伝えてくれる読みやすい短い文章を目にできるようになる。
「長い間、人間は数字が羅列されているデータで苦労してきましたが、もうデータで悩むべきではありません。機械が人間に分かりやすく伝えるべきなのです」(ハモンド博士)。
シカゴ市はクイルを利用して、数マイルに及ぶミシガン湖岸のデータを統合しようとしている。市は湖岸のさまざまなデータを記録し、扱いにくいスプレッドシートを作成している。クイルを活用することで、スプレッドシートにまとめた情報を良い岸辺や悪い岸辺を示す分かりやすい説明に要約する。
データを言葉に変換するのは、企業やその顧客にとっても有益だ。
「仕事をしている人の多くは、数字が羅列されているデータを見たくもないでしょうが、何が起きているのかは理解したいと思っています。総菜店を経営している人に数字しか記されていないデータを手渡すのはためらわれます。そのデータを解釈し、総菜店の経営者にアドバイスする報告書に変換するのです。その報告書を読めば、次に何ができるかが分かるでしょう」。