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データを保存してスマホで読み取れるスマート繊維が開発中
University of Washington
Your Next Password May Be Stored in Your Shirt Cuff

データを保存してスマホで読み取れるスマート繊維が開発中

ワシントン大学の研究者がちょっとしたデータを保存できるスマート・ファブリックを試作した。スマホの磁気センサーを利用してデータを読み取れるシンプルな素材で、カードキーに代わるアクセサリーや空中でスマホを操作できる手袋など、新しい使い方ができそうだ。 by Rachel Metz2017.11.08

ガジェット愛好家なら、洋服でさえもインターネットに接続している未来を想像しているかもしれない。しかし、現在発売されているスポーツウェアジャケットなどの商品には依然としてゴテゴテとした電子部品が付いており、イライラする。だが、希望はある。

ワシントン大学の研究者たちは現在、「スマート・ファブリック」と呼ばれる繊維製品の簡素化に取り組んでいる。大部分のスマホに内蔵されている磁気センサーに反応する、ほんのわずかなデータを保存できる磁化した繊維製品だ。目に見えないラベルを貼ったり、パスワードやキーカードの代わりにシャツやブレスレットを使ったりできる可能性がある。また、磁化した糸を手袋に縫い込んで、スマホのジェスチャー操作にも成功した。手袋に電子部品や電池を搭載する必要はない。研究論文は10月、カナダのケベック市で開催されたユーザー・インターフェイスに関するカンファレンスで発表された。

ネットワークに「つながる」生地や服は数年前に登場し、アーティストやスタートアップ企業、ときには大企業が喧伝してきた(グーグルの「プロジェクト・ジャカード」やリーバイスとの提携を参照)。だが、高い値段に見合わない機能の乏しさや耐久性に関する懸念などを理由に、いまだ一般には浸透していない。

ワシントン大学ネットワーク・モバイルシステム研究所のシャヤム・ゴラコタ所長(コンピューター・サイエンス工学科准教授)と大学院生のジャスティン・チャンは、スマートな衣服やアクセサリーを開発するために、今回の研究が役立つと考えている。というのも、2人が考えている磁性繊維は、安価でたやすく入手でき、デコボコしていない導電性の糸を使用するからだ。糸の地場強度は1週間ほどで減衰するが、洗濯や乾燥、アイロンがけの後でも、Androidスマホを使ってデータを読み取れた。

University of Washington researchers are storing bits of data on magnetized thread that can be read by a magnetometer.
ワシントン大学の研究者は、磁気センサーで読み取れるデータを磁化した糸で織った布に保存した。
University of Washington

「耐久性はかなりあります」とチャンはいい、導電性の糸を再プログラムすることもできるという。

研究では、導電糸を生地に縫い込み、0と1の短い文字列を電磁石を使ってN極とS極の磁極として符号化する。データの埋め込まれた生地の近くにスマホを置き、専用アプリでデータを読み込む。読み込みには、スマホがナビアプリ用に使う磁気センサーを利用している。デモ映像では、磁性糸で織られた布を付けたシャツで、磁気センサーを取り付けたドアを開錠する様子が見られる。

研究室では、磁性繊維製品の見本に加え、プログラムできるネクタイ、ベルト、ブレスレットなどのアクセサリーも試作している。

さらに、磁性糸を縫い付けた一組の手袋でスワイプやタップなどの動作をすると、近くのスマホでその動きを感知することにも成功した。3次元の磁場がジェスチャーによって変化したのを測定できたのだ。

市販のシャツやズボンに組み込まれるには、まだ研究が必要である。たとえば、磁性糸を縫い付けた手袋の指先を使ったジェスチャーでは6種類の動きを認識できたが、認識率は90%だった(ゴラコタ准教授の話では、ジェスチャーを4種類に絞れば認識率は99%になったという)。

たとえ磁性糸をシャツの袖に縫い込み、RFIDタグの代用品として機能するデータを織り込めたとしても、MP3フォーマットの楽曲などのようなデータは保存できない。さらに多くのデータを生地に保存する方法は、チャンとともに現在研究中だ、とゴラコタ准教授は語る。

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レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。
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