マイクロソフトのMR撮影スタジオで記者が踊ってみた
マイクロソフトは「ホログラム」の普及のために、大がかりなスタジオの設置を進めている。数年以内には普通の人がホログラム撮影ができるようになるとのことだが、記者が一足先に体験してみた。 by Rachel Metz2017.11.02
サンフランシスコにあるマイクロソフトの複合現実(MR)撮影スタジオへ向かう前日、「ホログラム」として撮影される予定だった私は、服装規定のメールを受け取った。「ホログラム」とは、拡張現実(AR)や実質現実(VR)のヘッドセット、あるいは2次元画面で視聴できるボリュメトリック映像(Volumetric video、視聴者の位置情報を追跡してさまざまな角度から見られる映像のこと)を表すマイクロソフトの用語だ。明らかなことだが、デジタルで多次元に保存される映像は、テレビと同様、すべてがきれいに見えるわけではない。
服装規定によると、帽子、メガネ、非常に濃い色や真っ白な衣服、または「模様が密集しているもの」は着用できない。特に避ける模様として具体的に挙げられていたのは千鳥格子だった。当日、水玉模様の紺色のドレスを着てスタジオに出向き、メガネと帽子はバッグにしまった。
大きな白い部屋の真ん中に立ち、106台のカメラと4台のマイクで撮影されながら、何度か下手なダンスを踊った。撮影は10秒ほどかかり、その結果が冒頭のお恥ずかしい映像である。
近い将来、ほとんどの人は、今の自分自身の映像を永遠に残すためにMR撮影スタジオに出向かなくでもよくなり、休日の装いをした家族映像を撮影できるようになるだろう。とはいえ、マイクロソフトは撮影費用を公表していない(費用は守秘義務契約書には記載されているので、撮影をする提携先と内密に交渉はできる)。そして、世の中にVR、AR用のヘッドセットは多くあるものの、そのすべてでボリュメトリック映像を見られるわけではない(VR用のヘッドセットや、いわゆるWindows向けMRヘッドセットはいくつかあるが、マイクロソフトのHoloLens(ホロレンズ)ヘッドセットはいまだに3000ドルもする開発者用のデバイスだ)。
それでも、マイクロソフトは、ワシントン州レドモンドの本社でボリュメトリック映像技術に7年間取り組んできた。その間、MR撮影スタジオと同じ方法で何千もの映像を撮影し、より多くの同様のスタジオを開設することで、ボリュメトリック映像というメディアの人気を高めようと努めている。
サンフランシスコの撮影スタジオは、テック企業が多く集まるサウス・オブ・マーケット地区にあるマイクロソフトの技術イベント・スペースにあり、部外者が訪れて自由に映像を制作できる。スタジオの管理者であるスティーブ・サリバンによると、その狙いは、セレブやサーカスのパフォーマンス、医師の訓練を目的としたバーチャルな患者など、あらゆる種類の人や企業に撮影してもらうことだという。その後撮影された映像は、デジタル世界と現実世界を融合するHoloLensのようなヘッドセット、完全没入型のVRヘッドセット、通常のディスプレイといった方法で見られる。
サリバンは次のように話している。「ホログラムは、ある特定の視点から見ると映画のように見えるメディアの一種ですが、見ている途中で視点を変えて別の角度からも見られます」。
歩道上であらゆる動きをする2人のブレイク・ダンサーの映像を見た。ダンサーの映像はマイクロソフトのスタジオで撮影されたが、背景は別の場所で撮影されたものだ。しかし、VRヘッドセットで見ている時には気づかなかった。というのも、ダンサーと背景は完璧に組み合わされていたからだ。地面に映る影は違和感はなく、見る角度を変えるために動き回っても、画像は鮮明だった。
マイクロソフトのスタジオには撮影対象をさまざまな角度から撮影するために多くのカメラをそろえている。その半数は普通のカラーカメラで、残り半数は赤外線カメラだ。カラーカメラは画像テクスチャに使用し、赤外線照明や赤外線カメラは3D形状を再現しやすくするために使う。映像はテクスチャを貼り付けた、多面体オブジェクトの形状を定義するポリゴン・メッシュの制作に使われる。このポリンゴン・メッシュは、ビデオ・ゲーム設計者がゲームを開発するのにも使える。
すべてのカメラを使用して標準的な1秒間に30フレームのレートで撮影すると、1秒あたり10GBが必要になる。映像の制作過程でこの容量は1秒あたり10MBにまで減少する。そのため、ストリーミング配信してWi-Fiを使ってさまざまなデバイスで見られるようになる。今のところ、最も長い作品は3分半から4分間だとサリバンは話している。
普通の人がボリュメトリック映像撮影を「数年のうちに」利用できるようになる、とサリバンは考えている。実際、サリバンは自分の2人の子供を数年間撮影している、と話してくれた(その話に驚いていると、サリバンの子供たちは今週、年に1回のホログラム撮影のためにやってくると付け加えた)。サリバンによると、過去を思い返すのにホログラムは写真よりもずっと良いのだという。
「HoloLensを装着して、7歳になった息子が4歳の時に歩きながらノック・ノック・ジョーク(だじゃれやなぞなぞの一種)を口にしているのを見るのは、理屈抜きに魅力的なことです」とサリバンは話した。
だが、サリバンの息子自身は、ホログラムを見るのをそれほど好んでいないようだ。それはあまり驚くことではないかもしれないが。
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- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。