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DNA構造を切断せずに修正、「CRISPR 2.0」が登場
US National library of medicine
CRISPR 2.0 Is Here, and It’s Way More Precise

DNA構造を切断せずに修正、「CRISPR 2.0」が登場

新たに開発されたゲノム編集技術である「一塩基編集」では、DNA構造を切断することなく塩基を1文字だけ修正することができる。 by Emily Mullin2017.10.27

「分子メス」として働く「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」を聞いたことがあるかもしれない。CRISPRは、遺伝子全体の編集や削除ができる技術である。このほどマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同で運営するブロード研究所の研究者が、ゲノムに含まれるごく小さな部分のみを修復可能な、より正確な機能を持つDNA編集ツールを開発した。

10月25日に発表された2つの研究論文のうち、1つはネイチャー誌に、もう1つはサイエンス誌に掲載された。論文の中で研究者らは、DNAとRNAの新たな編集手法である「一塩基編集」について説明している。このアプローチによって、現時点では治療法がないさまざまな遺伝性疾患を治療できるようになるかもしれない。

人間のゲノムは遺伝文字、すなわちA、T、G、Cとして知られる塩基を60億個含んでいる。それぞれの塩基はAとT、CとGが対をなしており、これによってDNAの二重らせんが構成されている。一塩基編集はCRISPRを改良した手法であり、DNA構造を切断することなく塩基を1つずつ修正できる。

これは有益な手法である。長いDNA鎖の中のたった1つの塩基対が入れ替わったり、削除されたり、挿入されたりすることで病気を発症することが時折あるためだ。こうした現象は「点突然変異」と呼ばれている。ヒトの病気に関連することがわかっている5万のゲノム変異のうち、点突然変異は3万2000を占めている。

ネイチャー誌に掲載された論文によると、ハーバード大学の化学教授であるデイビッド・リューと、ブロード研究所のメンバーらが、1つのAをGに変えることに成功したという。こうした変化は、病気につながる3万2000の点突然変異のうち、およそ半分で生じている。

この点突然変異を修正するために、リューらは単独の塩基だけをターゲットにできるようCRISPRを改良した。この編集ツールは、Aに含まれる原子を並べ替えてGに見せかけることができる。そうして細胞を「騙す」ことで、DNA複製の際にもう片方の遺伝文字を入れ替えるのである。その結果、A-T塩基対はG-C塩基対となる。基本的にこの手法は、DNAに含まれる遺伝子のかたまりを切り取ったり置き換えたりするのではなく、遺伝子コードにあるエラーのみを書き換えるのである。

「CRISPR-Cas9を含めた標準的なゲノム編集方法では、二重鎖が切断されてしまいます。これは、DNAの塩基を挿入したり削除したりするときには非常に便利です」と10月24日のプレス発表でリューは語っている。「ですが、点突然変異を修正するのが目的なら、一塩基編集の方が効率的でミス無く行なうことができます」。

リューによれば、一塩基編集はCRISPRを用いた従来の遺伝子編集を置き換えるようなものではなく、病気の治療のために遺伝子を操作する上での新たな選択肢の1つだという。リューいわく、CRISPRがハサミだとすると、塩基編集は鉛筆のようなものなのだ。

これまでに研究者らは、先に述べたAをGに入れ替える一塩基編集ツールではなく、GをAに入れ替える一塩基編集ツールをすでに作っていた。DNAの特定部分にあるAがGに置換されてしまうという変異は、病気に関連した点突然変異のおよそ15%に相当する。9月には、貧血の原因となる遺伝子突然変異を胚から取り除くために、こうした一塩基編集ツールの1つを使用したと中国の研究者らが報告している

リューらは、患者から細胞を採取し、一塩基編集ツールを用いることで、先天性血色素症を引き起こす点突然変異を修正した。血色素症とは、身体が食べ物から鉄を吸収しすぎてしまう病気である。過度に吸収された鉄は時間の経過と共に蓄積し、それによって肝臓がんやその他の肝疾患、糖尿病、心臓病、関節疾患が引き起こされる恐れがある。

リューらはまた、ヒトの細胞に対して一塩基編集を使用し、鎌状赤血球貧血症を抑制する突然変異を誘発した。これら2つの研究では、遺伝子全体を編集するCRISPRを用いる際に懸念されるような、ランダムなDNAの挿入や削除といった望まない副作用は実質的に観察されなかった。

サイエンス誌に掲載された新たな研究では、MITのフェン・ザンとブロード研究所のメンバーが、DNAではなく、RNA中の個別の文字をターゲットとして一塩基編集方法を用いている。RNAは、化学的にはDNAのいとこにあたる。RNAは体内で自然に分解されるため、RNA編集が個人のゲノムに永続的な変化をもたらすことはない。

カリフォルニア大学バークレー校の革新的ゲノミクス研究所のロス・ウィルソンは、いくつかの病気の治療において、最終的に一塩基編集がより優れた方法になるかもしれないという。ウィルソンがいうには、1つの塩基対は段落中の1つの単語のようなものである。従来のCRISPRテクノロジーでは、段落全体を置き換える必要があった。

「それではたくさんのDNAを移動させなければなりません」とウィルソンはいう。一塩基編集なら、単語を1つ変えるだけで済む。

リューは、DNAやRNAの一塩基編集が「さまざまな潜在的治療の用途」の補完的なアプローチとして使用できるだろうと期待している。研究室では今後、血液疾患や神経障害、先天性難聴、先天盲の治療に一塩基編集を用いることを検討している。

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エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
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