ネット企業はスマホで洗脳、
元グーグルのデザイン
倫理学者が主張する理由
テック業界の内側でスマホやソーシャルの負の側面に目を向ける人は多くない。だが、元グーグルの「デザイン倫理学者」は、スマホ利用の長時間化は公衆衛生の危機であり、テック企業はインターネットで社会を操っているという持論を展開している。インターネットをもっと社会的に貢献できるように使えないのだろうか。 by Rachel Metz2017.11.13
もしスマホを持っているなら(実際に米国では大多数がすでに保有者でその数は今も増加中だが)、すでに気づいているかもしれない。常にポケットに入れて持ち歩けるコンピューターであるスマホのアプリは、できるだけ長くアプリを使わせるように設計されている。そのうえ、画面タップやスワイプ、そして通知までがアプリによって誘導されているとは知らないのではないだろうか。
だが、トリスタン・ハリスによれば、アプリによる誘導は、フェイスブック、インスタグラム、スナップチャット、ツイッターなどのソーシャル・ネットワークを利用する数十億人のユーザーに実際に起きていることだという。ハリスは、この問題を解決する、あるいは少なくとも誘導されているという事実をユーザーに認識してもらうことが使命だと考えている。
グーグルでプロダクト・マネージャーから「デザイン倫理学者」に転じたハリスは、タイム・ウェル・スペント(Time Well Spent)を運営している。タイム・ウェル・スペントは、テクノロジー依存症(パソコンやスマホなどでメールやSNSをチェックをし続けてしまうようなテクノロジーから離れられない症状)やより良いアプリの設計方法を追究する非営利法人だ。タイム・ウェル・スペントは、アプリを使っている時間を最大限長くすることのみを目的とした企業とは異なる。消費者保護を追究し、またユーザーの生活向上を目的とした設計基準で作られたアプリを支持しているのだ。
このところ、ハリスはタイム・ウェル・スペントの活動から離れ、スナップチャットのスナップストリーク機能(毎日お互いにスナップを送り合うことで、火の絵文字にその回数が表示される)からYouTubeやフェイスブックの自動再生動画まで、テック業界がさまざまな方法でユーザーを誘導し、できるだけ閲覧時間を長びかせようにしようとする責任を追及している(この新しい活動の呼び名はまだない)。
「自分が自分自身で何をしているのか、ユーザーはまったく気づいていないのです」と、ハリスはいう。「アプリを使う時間の長時間化は公衆衛生の危機みたいなものです。さまざまな利益をもたらすことを除けば、たばこと同じです。実際、ユーザーは自分の『考え』がむしばまれていることに気づきもしなければ、認めることもできないのです」。
ハリスは続ける。たとえばテック企業は、ユーザーに対してソーシャル・ネットワークの閲覧をやめ、友だちに会いに出かけるように促すことはほとんどない。テック企業のビジネスモデルが広告収入に大きく依存しているためだからだ。ハリスはフェイスブック(または同様のSNSも)が悪いとも、スマホを使うのをやめるべきだとも言っていない。ハリスは、自身が創業したページ内検索の高速化技術を提供するスタートアップ企業のアプチャー(Apture)がグーグルに買収されたことで、2011年にグーグルに加わった。テック業界を内側から何年も見てきた彼は、史上最強の社会を誘導する機械であるグーグルを使うことに、危機感を抱いているという。さらに重要な点は、グーグルがユーザーをどう利用しているかだ。
ハリスの危機感はますます理にかなっているように思えてくる。確かに、モバイル・テクノロジーのおかげで、さまざまなすばらしいことが実現した。その一方で多くの研究機関によれば、フェイスブック、インスタグラム、スナップチャット、ツイッターなどのソーシャル・ネットワークの使用により、うつ病や社会的孤立のリスクが増大するなど負の結果ももたらされているかもしれないという。つまり、単にスマホを携帯しているだけで、思考力が鈍ってしまうかもしれないのだ。
こうした …
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