DNAで何でもわかる?
急増する遺伝子分析サービス
の玉石混交
米国食品医薬品局による消費者への遺伝子情報の直接販売の規制緩和を受けて、DNA検査結果を分析するサービスが急増している。サービスには適切なものもあるが、科学的根拠がほとんど無いものも少なくないため、議論を巻き起こしている。 by Antonio Regalado2017.10.31
ツイッターのフォロワーが11万5000人もいる米国で最も有名な循環器医師が、特定の製品を指して、その価値は完全にゼロだとソーシャルメディアに投稿するのは、あまり褒められたことではない。コメディアンのスティーブン・コルバートがテレビの深夜番組で、多くの人々の働いている産業を物笑いの種にして「まったく下らない」と言っているのと同じ、あるいはそれ以上にまずい。
@my_helix アプリで、非科学的で何の信ぴょう性もないデータにお金を費やしてしまいました。
計1900ドル、価値ゼロ。
消費者にゲノミクスに対する悪い評判が立ちますね。
この投稿は、遺伝子配列解析の巨大企業イルミナ(Illumina)からスピンアウトし、注目を浴びている企業ヘリックス(Helix)に対するものだ。ヘリックスは世界で最初のDNA検査のオンライン販売サイトを設立した。利用者は唾液サンプルを提供するだけで自分のゲノムの配列情報を購入できる。
ヘリックスが提供する、先祖の情報がわかる検査や、βサラセミア(β地中海性貧血)のキャリア(保因者)であるかどうかがわかる検査に問題があるわけではない。どちらも信頼できる科学に基づいている。問題は、Helix.comのWebページをスクロールすると、スタイリッシュなデザイン家電のショッピングサイト「シャーパー・イメージ(Sharper Image)」のDNA版を見ているような気分になることだ。もっとも、お金が余って仕方ない人は、誰にも必要のない空気清浄機やベーコン・トースターといった電気製品を買う代わりに、自分の遺伝子情報を使ってデザインしたスカーフに150ドル近く払ったり、DNAダイエット・アプリや、さらには遺伝子配列を考慮したおすすめワインにお金を使うのも一興だろう。
カリフォルニア州ラ・ジョラのスクリプス研究所(Scripps Research Institute)に勤務する著名な循環器医師であり、遺伝学者であるエリック・トポルは、もうたくさんだという。Helix.comにはこうしたアプリがあまりにも多いので、まるで遺伝的な占星術をしている気分だ。トポル医師は「データにはまったく根拠がありません。擬似科学であり、価値は完全にゼロです」と言う。計算によると、消費者はほとんど価値のないデータを得るために、17のアプリを買って1900ドル支払っていると言う。
20017年、米国食品医薬品局(FDA)は、それまで事実上禁止していた消費者への遺伝子情報の直接販売の規制を緩和すると発表した。その後、遺伝子検査を提供する企業が急速に増えた。適切なものからまったく馬鹿げたものまで玉石混交だ。
ヘリックス以外にも、DNA検査を販売している会社はたくさんある。テレビにコマーシャルを出しているある会社は「サッカー・ゲノミクス(Soccer Genomics)」と呼ばれる「サッカー上達に役立つ個別レポート」を届けるという。ボストンのスタートアップ企業オリジン(Orig3n)は、99ドル出せば子供の言語習得能力を予測する検査をするという。この会社は2017年9月には州政府の取締官たちから反対があって、ボルティモア・レイブンズ(Baltimore Ravens)のフットボール試合場でDNA検査を無料で受ける権利を配布する計画を中止しなければならなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=yvS2gjMMXBQ
トポルが心配するのは、遺伝学という分野が誤解、偏見、さらにはプライバシー侵害によって荒らされることだ。「まるでジャングルです」とトポル言う。「証明済みの事実と証明されていないことがごちゃ混ぜになっていて、まったく無責任です。消費者はどう判断すればよいのでしょうか」。
活発な議論
MITテクノロジーレビューはヘリックスが作ったDNAアプリストア(DNA app store)を2016年の「ブレークスルー・テクノロジー10」の一つとして取り上げた。ヘリックスによる革新 …
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