枯渇するAI人材、
機械学習の自動化に脚光
人工知能(AI)の専門知識とスキルを持つ人材が不足しているのは、日本だけではない。一般企業でAIや機械学習を活用するための人材は特に枯渇している状況だ。そこで、機械学習の自動化や、「エクセル並み」に手軽に使えるツールの開発を目指す動きが加速している。 by Will Knight2017.10.27
一見したところ、スコット・バートンは人工知能(AI)の先駆者に見えないかもしれない。バートンは自動運転自動車を作っているわけでも、AIを学習させてチェスや囲碁の試合で人間を打ち負かしているわけでもない。しかし、ファーマーズ保険(Farmers Insurance)では、テクノロジー分野で誰も成しえなかった働きをしている。
バートンはデータを解析して、さまざまな消費者行動や保険設計に関する質問に答えるチームを率いている。バートンのチームは深層ニューラル・ネットワークから決定木まで、あらゆる最先端の機械学習テクノロジーを使っている。しかし、そのためにAIを操る魔法使いの集団を雇ったわけではない。チームはデータロボット(DataRobot)というプラットホームを使って、機械学習を使用する際の多くの難しい作業を自動化している。
ファーマーズ保険でのデータロボットの使い方に、今後数年間のAIが進むべき方向性のヒントがある。ただし、AIの巨大な可能性を認識していればの話だ。AIには、ディープマインド(DeepMind)の囲碁競技ソフト「アルファ碁(AlphaGo)」の目覚ましい成果を追い越し、すべての産業を革新してあらゆるビジネスを効率化し、生産性を上げる力がある。同時に、経済全体の生産性が上がることで経済の若返りを期待できる。しかし、そのためにはAIはもっと使いやすくならなければならない。
現在の問題点は、AIテクノロジーを使うために多くの手順が必要で、高度な専門知識が必要なことだ。表面的にAIテクノロジーのインターフェースをもっと使いやすくする、といった簡単なことではない。問題はプログラムを作ったり調整したりするときに、技術者自身がその場で判断したり、ノウハウを盛り込まなければならないことだ。
そこで現在、AI研究者やAI関連企業は、AI自身に問題を解決させる方針を立て、対処しようとしている。AIアルゴリズムの開発時に、人間が扱いにくい部分を機械学習によって自動化しようというのだ。専門家の中には、AIアプリケーションをマイクロソフト・エクセルと同程度に使いやすくするため、まるでAIで強化したオペレーティング・システム(OS)のようなAIシステムを構築している人もいる。
データロボットは、そうした方向への第一歩だ。生データを入力すると、プラットホームは自動的にデータから余分なものを取り除き、適切なフォーマットに変換する。次にデータに対して何十もの異なったアルゴリズムを同時に実行し、アルゴリズムの性能をランク付けする。当初、バートンはデータロボットにさまざまな保険データ(損益、運用益など)を入力して、それぞれをドル建てで価値を計算した。従来の手作業による統計学的手法と比べ、誤り率が20パーセント低かった。「プログラムを使ってボタン1つ押して出る結果にしては、非常に優れていました」とバートンはいう。
AI人材の不足をどう補うか?
2017年6月、コンサルティング会社のマッキンゼーが発表したレポートは、AIが現実的にどのように利用されているのかを明らかにしている。このレポートでは結論として、AI、特に機械学習が製造、金融、健康管理などの大規模産業に全面的な見直しを迫り、2025年までに米国経済に最大1260億ドルの貢献をする可能性を指摘している。ただし、レポートには、深刻な優秀な人材の不足という大きな警告も併せて記されている。
できるだけの多くのAI人材を育成しようという大きな動きはある(「人工知能のトップ研究者が語る、AI人材が100万人必要な理由」参照)。しかし、人材育成には時間がかかり、誰もがAIを自在に使いこなせるようになるわけではない。あるテクノロジーの効果を最大にする一番良い方法は、できるだけ使いやすくすることだ。それができて初めて、AIは普通のオフィスや作業現場で使われるようになる。そしてすでに、データロボットはオフィスや現場で使われ始めている。
ある日の午 …
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