3年で150億ドル投資、アリババCTOが語る桁違いの研究開発の狙い
知性を宿す機械

Alibaba Aims to “Master the Laws” of AI and Put Virtual Helpers Everywhere 3年で150億ドル投資、アリババCTOが語る桁違いの研究開発の狙い

アリババは、新しく立ち上げたIoT、フィンテック、量子コンピューティング、AIなどの新興技術を研究する組織を立ち上げ、150億ドル以上を投資すると発表した。責任者に任命されたジェフ・チャンCTOが、DAMOのビジョンを語った。 by Yiting Sun2017.10.17

中国の電子商取引巨大企業アリババは、人工知能(AI)や量子コンピューティングなどの最近注目されている新技術分野の研究に、向う3年間で150億ドル以上を投資する計画を発表した。

アリババのジャック・マー会長は「2017杭州・雲栖大会(年次コンピューティング・カンファレンス)」の初日となる10月11日、「達磨院(DAMO)」の設立を発表した(DAMOはDiscovery/発見、Adventure/冒険、Momentum/機運、Outlook/展望の頭文字)。マー会長によると、DAMOは「IoT、フィンテック、量子コンピューティング、AIに関する『問題解決』に的を絞った研究をする」といい、中国、米国、ロシア、イスラエル、シンガポールの7カ所に研究所を開設する。

中国のテック企業は最先端技術へますます旺盛に投資している。その最たるものがAIだ(「China’s AI Awakening」参照)。アリババが将来へ向けてこれほどまで独自の研究に取り組んだことはない。すでに2万5000人以上のエンジニアがAIの実用化に取り組み、消費者向けの製品やクラウド・コンピューティング・サービスの開発を進めている。

DAMOの責任者はジェフ・チャン最高技術責任者(CTO)が兼務している。チャンCTOはカンファレンス会場で、MIT テクノロジーレビューのイェティン・サン編集者に対して以下のように語った。

——DAMOのビジョンを教えてください。

世界中で業種を超えて人材を集めるつもりです。生命科学や物質科学の専門家、はたまた製造業関係者といった人たちです。AIを商品開発に組み込むためには研究すべきことが山ほどあります。

さまざまな分野で最高の人材を集めたいと考えています。アリババ の裾野は広大で、DAMOでは誰でも好きなことを研究できます。普通の大学でビッグデータやAIを研究するには、データやコンピューター能力の利用に限界があり、非常に難しい状況です。DAMOは米国、シンガポール、ロシア、イスラエルで人材を探しています。

——アリババが伝統としてきた中小企業への貢献とDAMOとの関係はどうでしょう?

DAMOを、アリババとは関係のない特別な研究施設にはしないつもりです。むしろ、DAMOと当社の核となるビジネスをより密接な関係にしていきたいと考えています。

——AI研究の現状についてのお考えを聞かせてください。

現在、最も重要な問題は、深層学習の確固たる理論をいかに展開するかということだと思います。工学レベルにおいては深層学習を使ってある程度のものを提供できましたが、科学とは法律をマスターするようなものです。人間は空気力学を理解してから飛行機を造りました。ですから、ある特定のニューラル・ネットワークのパラメータをいじって望み通りの結果を得るだけではだめで、ニューラル・ネットワークの原理をきちんと把握することが大切だと思います。こうした原理・原則の解明は、DAMOの研究領域となるでしょう。

——アリババが7月にリリースしたスマート・スピーカー、Tモール・ジーニー(Tmall Genie)の今後の計画はどのようなものですか?

Tモール・ジーニーの基礎となる音声ベースのAI技術を、標準システムとして他のデバイスにも組み込めるモジュールにしたいと考えています。たとえば、9月に三亜市(南中国にある人気リゾートタウン)のホテルと提携し、客室を音声コントロールに対応させると発表しました。宿泊客は自分の声でカーテンを閉めたり、エアコンを調整したりできます。そのほかにも、Tモール・ジーニーを使うと、子供は自分のおもちゃに話しかけたり、大人はチキンの好みの焼き加減をオーブンに語りかけたりできます。

——13年間アリババに勤務している間に、データに対する考え方はどのように変化しましたか?

インターネットという「文脈」に身を置く企業として、当社の強みはデータを使って自社のビジネスを変えられることを理解できていることです。データを賢く使えれば広告宣伝収入は増え、ユーザー体験も多様化できるでしょう。

データに関する私の理解は、近年起こった2つの大きな変化に基づいています。1つはデスクトップ・コンピューターから無線デバイスへの移行です。もう1つはユーザーの根本的な変化、つまり以前に比べてずっと多くの選択肢を持つようになったことです。当初はユーザーの買いたいものを片っ端から提供することでニーズを満たしていました。しかし、現在ではユーザーのニーズを我々が生み出しています。多くの人たちが、欲しいものがなくても、アリババ の買い物サイト、 淘宝(タオバオ)にアクセスするのですから。

だからこそ、我々が消費者とメーカーとを完璧にマッチさせる必要があり、それはデータに依るところになります。もっとも、最初からそう知っていたわけではありません。データがいかに重要かを悟ったのは、 1日に数回フロントページの商品写真を変えると、ユーザーのクリック回数が増えることに気がついた時でした。それからというもの、データに基づいた自動プロセスを設計し、フロントページを毎日更新したのです。

——アリババの最大の懸案は何ですか?

アリババの技術は非常に複雑なビジネス・システムです。決済や売買を扱うため、1つとして間違いは許されません。最大の懸案は、セキュリティと柔軟な情報システムをいかにして両立させかということです。アリババのショッピングサイトでは10億点の商品を扱っていますが、たった1つの商品のWebページや購入記録であっても失うわけにはいきません。もし、そんなことが起これば、購入者は説明を要求してくるからです。