遺伝性網膜疾患の遺伝子療法、米国でまもなく認可へ
遺伝性の網膜疾患を治療する遺伝子療法「ラクスターナ」が来年初頭にも米国で認可される可能性が高まっている。1990年代の研究開始以来、遺伝子療法「冬の時代」を経てようやく陽の目を見そうなこの療法の価格については両眼で100万ドルとの予測があるが、治療の効果がどのくらい持続するのかは未知数だ。 by Emily Mullin2017.10.24
アリソン・コロナの人生は5年前まで闇に覆われていた。レーバー先天性黒内障という遺伝性の目の病気のため、色はほとんど認識できず、人は輪郭だけで顔の特徴や表情は決して見ることができなかった。人生が半分しかないようだったとコロナは言う。
しかし、2012年に臨床試験に参加し、遺伝子療法と呼ばれる実験的治療を受けてからというもの、彼女の人生は変わった。コロナは現在25歳だが、視力の改善は「劇的」だったそうだ。すべてが明るく見えるようになった。物の質感もわかるし、母親の顔を見て、幸せそうか悲しそうかもわかる。
コロナが受けた遺伝子療法は現在、多くの患者が利用可能なものに一段階近づいた。2017年10月12日に専門家からなる第三者委員会が16対0の全会一致で、米国食品医薬品局(FDA)に対し、この遺伝子療法を承認するよう勧告したのだ。フィラデルフィアに本社を置くスパーク・セラピューティクス(Spark Therapeutics)の「ラクスターナ(Luxturna)」と呼ばれる遺伝子療法である。
ラクスターナは長い間、最初に米国市場に登場する遺伝子療法だろうと期待されていた。しかし2017年8月になって、患者の免疫細胞を遺伝子的に改変し、ガンと戦わせる新しい遺伝子療法「キムリア」をFDAが認可し、「最初の遺伝子療法」と冠されることになった。ラクスターナが承認されれば、米国で初の「遺伝形質を治療するための療法」となる。FDAはラクスターナを承認するかどうかを、2018年1月12日までに決定しなければならない。
これまでのところ、ラクスターナは目覚ましい成果を上げている。25人以上の子供や大人の視力を改善することに成功した。ここで残る疑問は、効果がどれだけの期間持続するのか、そして費用はいくらくらいかかるのか、ということだ。2017年10月12日付けのFDAの文書は、長期間にわたる治療のデータがないことを指摘している。費用については、あるアナリストの予測では片方の眼につき約40万ドルだが、両眼で100万ドルになるだろうという予測もある。
これまで何十年も遺伝子療法は、深刻な遺伝病を治療し、治癒する可能性を秘めた方法だと考えられてきた(「ブレークスルー・テクノロジー10:遺伝子療法2.0」を参照)。伝統的な意味合いでは、遺伝子療法とは問題のある遺伝子を持つ患者に、遺伝子操作をしたウイルスを使って健康な遺伝子を移植することである。遺伝子療法の目的は、多くの薬のように症状を単に緩和するのではなく、遺伝子的な根本原因から病気を治すことにある。
スパーク・セラピューティクス(以降「スパーク」)のジェフ・マラッツォCEO(最高経営責任者)は、ラクスターナの承認は医学の新しい時代の幕開けとなると言う。「今後20年か30年、もしかすると50年間、医療とは遺伝子療法のことになると信じています。医療が根本的に変わる時代が始まったのです」。
ラクスターナでは、正常な視力を得るのに必要なタンパク質を作るRPE65という遺伝子の突然変異を修正する。この遺伝子の突然変異が、レーバー先天性黒内障や網膜色素変性などの網膜疾患を引き起こすのだ。
治療では、正常なRPE65遺伝子を持つ何十億もの遺伝子操作済みウイルスの粒子を患者の網膜細胞に運び込む。素早い手順で患者の目に直接注入するのである。
臨床試験では、29人の患者のうち27人の視力が改善した。約93パーセントだ。視力を改善できたかどうかは、障害物を置いた暗がりのコー …
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